欠員の穴埋めでシフトに入り、経営の数字を見る時間が取れない施設長は、まず自分の1〜2週間の業務を書き出し、「管理者でなければできない仕事」と「任せられる・減らせる仕事」に分けることから始めます。何に時間を使っているかが分かれば、任せる先と順番を決められ、空いた時間を稼働率や人件費率などの月次の数字の確認に充てられます。

管理者が業務の実施状況を把握し、経営の数字を見て手を打てる状態は、人員体制とケアの水準を保つための土台です。収支の悪化に早く気づけば、職員の配置を守りやすくなり、利用者は同じ体制でケアを受け続けられます。この記事では、運営基準での管理者の責務と現場に入ることの扱い、手が回らない原因の切り分け、業務の棚卸しの手順、任せる先ごとの任せ方、数字を見る時間の確保、生産性向上の委員会の使い方を扱います。

施設長が現場に入ることの基準上の扱い

特養の運営基準(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)第21条は、管理者を施設の職務に専ら従事する常勤の者とし、管理上支障がない場合に限って、他の事業所、施設等の職務に従事できるとしています。第22条では、第1項で従業者の管理と業務の実施状況の把握その他の管理を一元的に行うこと、第2項で従業者に基準を守らせるための指揮命令を行うことを、管理者の責務と定めています。

2024年度の介護報酬改定では、この責務が「利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時かつ適切に把握しながら、従業者及び業務の管理を一元的に行う」ことだと解釈通知で明確にされました。そのうえで、責務を果たせる場合には、同じ事業者の他の事業所の職務を、同一敷地内でなくても兼ねられることになりました。ただし、管理すべき事業所の数が過剰な場合や、事故などの緊急時にすぐ施設へ駆け付けられない体制の場合は、一般に管理業務に支障があるとされています。施設の従業者として介護などの職務を兼ねることも、管理業務に支障がないことが条件です。

つまり、施設長が介護のシフトに入ること自体は認められていますが、前提は管理業務が止まっていないことです。欠員の穴埋めが続き、職員の状況や業務の実施状況を把握する時間がなくなっているなら、その前提が揺らいでいます。通所介護でも、管理者の兼務は指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準の第94条、管理者の責務は同基準第105条で準用する第52条に、同じ考え方で定められています。兼務の範囲に迷うときは、指定権者に確認してください。

(参考:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第21条・第22条、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第52条・第94条・第105条、厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1213」別紙14「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」第4の23・24、厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」)

手が回らない原因の切り分け

施設長が現場業務に追われる原因は、大きく3つに分かれます。1つ目は、欠員の穴埋めで介護のシフトに入っていることです。これは人が足りない問題なので、業務の分け方を変えても欠員そのものは埋まらず、採用や定着の対策が別に必要です。2つ目は、管理者でなくてもできる業務を抱えていることで、電話の一次対応、書類の作成、物品の発注、シフトの細かな調整などがあたります。3つ目は、業務のやり方そのものに無駄があることで、同じ内容を何枚もの書類に転記する、同じ連絡を職員ごとに繰り返す、といった形で現れます。

厚生労働省の生産性向上ガイドラインは、日々の業務から「ムリ」「ムダ」「ムラ」を見つけて解消することを改善活動の中心に置いています。2つ目と3つ目は、この考え方で減らせる部分です。どの原因がどれだけの時間を占めているかは、感覚ではなく記録で確かめます。次の棚卸しは、その記録を取るための手順です。

(参考:厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」施設・居宅・医療系各サービス共通冊子(令和6年度改訂))

1〜2週間の業務の棚卸しの手順

棚卸しでは、次の列を持つ表に、自分の業務を1件ずつ書き込みます。紙でも表計算ソフトでもかまいません。

列の名前

書く内容

日付と時間帯

業務を始めた時刻と終えた時刻

業務の内容

「書類」ではなく「入所申込者の家族への連絡」のように、何をしたかが分かる言葉

きっかけ

毎日・毎月の定例か、突発か、欠員の穴埋めか

区分

4つの区分(手順3)のどれにあたるか

任せる先の候補

介護助手・リーダー・事務職員・ICT・やめる、のいずれか

「きっかけ」の列を設けておくと、欠員の穴埋めに使った時間と、それ以外の業務に使った時間を分けて数えられます。手が回らない原因のうち、どれが大きいかはこの列で分かります。

  1. 記録する期間と書き方の決定:月初と月末で業務が違うため、請求や会議がある週を含めて1〜2週間を選び、業務が切り替わるたびに時刻を書きます。よくある失敗は、1日の終わりや週末に思い出してまとめて書くことで、短い電話や呼び出しのような細切れの業務が抜け落ちます。
  2. 業務の書き出し:介護のシフトに入った時間、電話、家族対応、書類、会議、シフト作成、職員の相談など、管理業務と現場業務を区別せずにすべて書きます。よくある失敗は、「雑務」「その他」とまとめて書くことで、あとで誰に任せられるかを判断できなくなります。
  3. 4つの区分への仕分け:書き出した業務を、「管理者でなければできない」「判断は管理者が行い、作業は任せられる」「他の職員に任せられる」「やめる・減らせる」の4つに分けます。管理者でなければできない仕事の中心は、運営基準が責務とする職員の管理、業務の実施状況の把握と指揮命令です。事故や苦情への対応の判断、職員との面談や評価、経営の数字を見て方針を決めることも、多くの施設では管理者に残す仕事でしょう。よくある失敗は、「自分がやったほうが早い」という理由で2つ目や3つ目の業務まで1つ目に入れてしまうことです。
  4. 任せる先と順番の決定:任せられる業務ごとに任せる先を決め、時間が長いものと、手順が決まっていて教えやすいものから順番を付けます。任せる先の職員に余力があるか分からないときは、ガイドラインの業務時間調査が使えます。これは、調査日に勤務する全職員が、勤務中10分ごとに業務区分を記入して、誰がどの業務にどれだけ時間をかけているかを見える化する方法です。よくある失敗は、一度に多くの業務を渡すことで、任された職員の負担が急に増え、結局は管理者に戻ってきます。
  5. 空いた時間の予定化:任せた業務の分だけ空いた時間に、月次の数字を見る日や職員との面談を先に予定表へ書き込みます。よくある失敗は、空いた時間を空けたままにして、また現場の呼び出しで埋まってしまうことです。

(参考:厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」施設・居宅・医療系各サービス共通冊子(令和6年度改訂))

介護助手・リーダー・事務職員・ICTへの任せ方

任せる先ごとに、任せやすい業務と、任せる前に決めておくことは次のとおりです。

任せる先

任せやすい業務の例

任せる前に決めること

介護助手

清掃・配膳・洗濯・物品の補充など、身体介護を伴わない周辺業務

受け持つ業務の範囲と、介護職員に引き継ぐ場面

リーダー(ユニットリーダー・主任など)

当日の勤務の調整、申し送りの取りまとめ、新人の指導

任せる判断の範囲と、管理者に報告する事柄

事務職員

電話の一次対応、書類の作成と整理、請求データの入力

手順書と、管理者が確認する箇所

ICT(ソフトウェア・機器)

シフトの作成、記録の転記、職員間の連絡

減らしたい業務と、いまの施設のルール

施設長が直接任せるのはリーダーと事務職員で、介護助手とICTは、介護職員の手を空けて施設長が穴埋めに入る回数を減らすための手段です。

介護助手:ガイドラインでは、介護助手を、介護職員と業務を分担して身体介護等の専門的な業務以外の周辺業務を担う職種としています。生産性向上推進体制加算(Ⅰ)でも、介護助手の活用などによる職員間の役割分担が要件の一つです(「生産性向上推進体制加算の要件」)。担い手を探すときは、都道府県や市区町村が実施する「介護に関する入門的研修」が手がかりになります。この研修は介護未経験者向けで、厚生労働省の通知は、修了者と介護施設・事業所とのマッチング支援を都道府県福祉人材センター等と連携して行うよう求めています。よくある失敗は、受け持つ業務の範囲を決めずに採用し、介護職員が介護助手への指示に追われることです。

リーダー:施設サービス向けのガイドラインの事例集には、ユニットリーダーの現場業務とマネジメント業務を切り分け、互いにカバーする体制を作って人材育成の時間を確保した施設の例が載っています。当日の勤務調整のように毎日起きる判断は、範囲を決めてリーダーに渡すと、施設長への呼び出しが減ります。よくある失敗は、作業だけを渡して判断を渡さないことで、結局は判断を求める電話が施設長にかかってきます。

事務職員:電話の一次対応や書類の作成は、手順が決まっていれば事務職員に任せられます。一方、請求内容の最終確認や、利用者・家族への説明の判断は管理者に残し、どこで確認するかを手順書に書いておきます。ガイドラインも、改善の取組の一つに手順書の作成を挙げています。よくある失敗は、口頭だけで引き継ぐことで、担当者が休むと施設長が代わりに対応することになります。

ICT:施設サービス向けのガイドラインの事例集には、勤務シフトの自動作成システムを入れてシフトの作成時間を減らした例が複数あります。ただし、システムは施設が決めたルールどおりにシフトを組む道具なので、配置や希望休のルールを先に言葉にしておきます(「介護施設のシフト管理のルール」)。記録やインカムを含めた全体像は「介護ICTとは?導入で解決できる課題の全体像」、費用の補助は「介護テクノロジー導入支援事業と補助金・助成金」で解説しています。よくある失敗は、機器を先に選んでから使い道を考えることで、減らしたい業務が減らないまま操作の手間だけが増えます。

(参考:厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」施設・居宅・医療系各サービス共通冊子、施設サービスガイドライン(いずれも令和6年度改訂)、「介護に関する入門的研修の実施について」(平成30年3月30日社援基発0330第1号))

経営の数字を見る時間の確保

棚卸しで空いた時間は、放っておくと現場の業務でまた埋まります。数字を見る時間は、次の順で予定として固定します。

  1. 毎月の日時の決定:前月の実績と請求が確定したあとの日を選び、毎月同じ時期に1回、数字を見る時間を予定表に入れます。よくある失敗は、「時間ができたら見る」としておき、忙しい月ほど見なくなることです。
  2. 数字の準備の分担:延べ利用者数や給与費など、元になるデータの集計は事務職員に任せ、施設長は読むことと次の行動を決めることに時間を使います。よくある失敗は、集計まで施設長が抱え込み、見る時間が集計で終わってしまうことです。
  3. 見る数字の固定:稼働率と人件費率(給与費割合)を中心に、毎月同じ式で出した数字を見ます。よくある失敗は、月によって見る数字や式を変えることで、前月や前年同月と比べられなくなります。
  4. 次の行動の決定:前月と比べて大きく動いた数字を1つ選び、原因を確かめる担当と期限を決めます。よくある失敗は、数字を眺めて終わり、翌月も同じ確認を繰り返すことです。

月次で追う数字の種類と全国値との比べ方は「介護施設が赤字になる原因の探し方」、それぞれの出し方は「介護施設の稼働率の計算方法」「介護施設の人件費率(給与費割合)」で解説しています。

生産性向上の委員会での見直しの継続

業務の任せ方は、一度決めても職員の入れ替わりで崩れます。見直しを施設長1人の作業にしない場として、生産性向上の委員会を使えます。特養の運営基準第35条の3は、業務の効率化や介護サービスの質の向上などの取組を進めるため、入所者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討する委員会を定期的に開くよう定めています。この規定は2027年3月31日までは努力義務で、2027年4月1日からは開催が必要になります。老健や介護医療院、短期入所系・居住系・多機能系のサービスにも同じ規定があります。

委員会では、任せた業務がうまく回っているか、任された職員の負担が偏っていないかを定期的に確かめます。ガイドラインの「課題把握シート」は、管理者向けと職員向けの31項目のチェックシートで、管理者と職員の課題認識の差を捉えられるので、委員会で最初に使う材料になります。委員会の運営と加算の要件は「生産性向上推進体制加算の要件」で解説しています。

(参考:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第35条の3、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第16号)附則第4条、厚生労働省「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」施設・居宅・医療系各サービス共通冊子(令和6年度改訂))

まとめ

施設長が経営の数字を見る時間は、自分の業務を書き出し、管理者でなければできない仕事以外を任せる先に移すことで作ります。

出発点は、これからの1〜2週間、この記事の棚卸し表の列で自分の業務を記録し、欠員の穴埋めに使った時間とそれ以外の時間を分けて数えることです。

次に、記録を4つの区分に分け、時間が長く教えやすい業務から任せる先を1つ決めて手順書を作り、翌月の予定表に数字を見る日を入れてください。なお、欠員の穴埋めが時間の大半を占めている場合は、業務の分け方とは別に、採用と定着の対策が必要です。

参考