介護施設の赤字の原因は、まず収入が減ったのか、費用が増えたのかに分けます。そのうえで、稼働率や利用者1人1日あたり収入など5つの項目を前年度と比べます。すると、原因を絞り込めます。厚生労働省の調査では、2024年度決算で赤字だった事業所は全サービスで37.5%でした。施設サービスでは44.8%です。赤字の施設は珍しくありません。ただし、原因は施設ごとに異なり、全国の数字からは特定できません。

この記事では、種別ごとの赤字事業所の割合と、特養の定員規模別の収支差率の読み方を扱います。自施設で確認する5項目と手順、元金返済後に残る資金の確認も整理します。あわせて、経営改善で月次に追う数字の式と、経営情報の報告データの使い方を紹介します。

種別ごとの赤字事業所の割合

厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」は、2023年度と2024年度の決算を調べています。赤字だった事業所の割合は、次のとおりです。

サービスの種類

赤字事業所の割合(2023年度決算)

赤字事業所の割合(2024年度決算)

介護老人福祉施設(特養)

45.1%

44.3%

介護老人保健施設(老健)

53.1%

49.3%

介護医療院

37.3%

39.6%

施設サービス全体

45.8%

44.8%

特定施設入居者生活介護

31.9%

27.4%

認知症対応型共同生活介護

32.2%

30.7%

全サービス平均

38.5%

37.5%

2024年度決算の割合は、調査結果の概要に載っている値です。2023年度決算の割合は、統計表の参考1から計算しました。参考1は、収支差率の階級別に事業所数を示した表です。このうち、収支差率が0%未満の事業所数を合計して、有効回答数で割っています。同じ計算を2024年度決算の表(参考2)で行うと、概要の値と一致します。収支差率は税引前で、物価高騰対策関連の補助金を含まない値です。

老健は53.1%から49.3%に下がりました。一方、介護医療院は37.3%から39.6%に上がっています。同じ種別でも、割合は年度によって動きます。また、赤字事業所の割合は、種別によって開きがあります。全国の数字と比べるときは、自施設と同じ種別の値を使います。割合の高い種別であっても、自施設が赤字になった理由は、このあとの5項目で確かめます。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」、厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」参考1・参考2)

特養の定員規模別の収支差率の読み方

同じ調査の統計表には、特養の定員規模別の集計があります。2024年度決算の収支差率は、次のとおりです。物価高騰対策関連の補助金を含まない値です。

定員規模

収支差率(2024年度決算)

有効回答数

30人

0.7%

104施設

31〜50人

▲0.8%

311施設

51〜80人

1.0%

355施設

81〜100人

2.7%

208施設

101人以上

3.3%

118施設

マイナスなのは、31〜50人の区分だけです。51人以上では、規模が大きい区分ほど収支差率が高くなっています。ただし、30人の区分は31〜50人より高い値です。また、この表は、規模以外の条件をそろえた比較ではありません。地域や居室の形態などの違いは、そのまま含まれています。自施設の規模区分の値は、目安にとどめます。差が出ている理由は、自施設の数字で確かめます。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第70表)

原因を探す5項目と確認の手順

赤字の原因は、収入側の3項目と費用側の2項目に分けて調べます。調べる順は、前年度からの変化が大きい項目からです。

確認項目

区分

前年度と比べる数字

稼働率

収入

延べ利用者数と空床の理由

利用者1人1日あたり収入

収入

要介護度の構成と算定中の加算

保険外の利用料・補助金

収入

収入額と終了した補助金

給与費

費用

給与費の額と残業・派遣の費用

委託費・その他の費用

費用

委託費と光熱水費・食材料費

介護報酬による収入は、「延べ利用者数×利用者1人1日あたり収入」に分けられます。そこで、稼働率と単価のどちらが動いたかを先に見ます。分け方は「介護施設の売上の見方」で解説しています。稼働率の出し方は「介護施設の稼働率の計算式」を参照してください。報酬改定のあった年度は、1人1日あたり収入に改定による単価の変化も含まれます。要介護度の構成や加算の算定状況の変化とは、分けて見ます。

費用側は、割合だけでなく金額で比べます。収入が減った年は、給与費の額が変わらなくても給与費割合が上がるためです。割合だけを見ると、費用が増えたと誤って読むことがあります。給与費割合の読み方は「介護施設の人件費率の出し方」で解説しています。

自施設では、次の順に確認します。

  1. 前年度と当年度の決算を、同じ勘定科目の区分でそろえます。年度の途中なら、直近12か月とその前の12か月を使います。月数の違う期間どうしを比べないようにします。
  2. 収支差率を2通りで出します。一時的な補助金を除く場合と、含む場合です。補助金を含む数字だけを見ると、本業の収支の悪化を見落とします。出し方は「介護施設の利益率(収支差率)の出し方」で解説しています。
  3. 5項目それぞれの前年度からの増減を、金額で出します。割合の変化だけで並べると、収入が減った影響を費用の増加と取り違えます。
  4. 収支差への影響が最も大きい項目を主因とし、その内訳を調べます。稼働率なら、退所後の空床期間や入院・外泊を見ます。1人1日あたり収入なら、要介護度と加算です。給与費なら、残業・派遣・欠員補充の費用です。全項目を同時に深掘りすると、主因が絞れなくなります。

調査の数字でも、補助金の扱いで収支差率は変わります。2024年度決算の特養の収支差率は、物価高騰対策関連の補助金を含まないと1.4%です。含めると1.6%でした。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」)

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元金返済後に残る資金の確認

収支差率は損益の指標で、借入金の元金返済は含まれません。一方、減価償却費は費用に入っていても、その年に現金は出ていきません。そのため、黒字でも返済で手元の資金が減ることがあります。赤字でも資金が残ることもあります。

調査の統計表には、1施設・1か月あたりの参考値が載っています。式は「(税引後の差引+減価償却費+国庫補助金等特別積立金取崩額)-借入金元金償還金支出」です。2024年度決算の特養では、次のとおりです。

項目

金額(千円/月)

税引後の差引(補助金を含む)

471

減価償却費

2,412

国庫補助金等特別積立金取崩額

▲899

設備資金借入金元金償還金支出

▲1,472

長期運営資金借入金元金償還金支出

▲152

元金返済後の参考値

360

▲は差し引く額です。自施設でも同じ式で、元金返済後に残る資金を出します。収支差率とあわせて、前年度からの推移を見ます。この値がマイナスの年が続く場合は、資金計画や借入の条件を確認します。確認の相手は、法人の経理担当や取引のある金融機関です。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第1表)

主因が分かったあとの進め方

主因の項目が決まったら、対策は1つに絞り、月次の数字で効果を確かめます。介護施設の経営改善は、この繰り返しで進めます。収入側が主因なら、空床の理由別の記録から始めます。あわせて、算定している加算と算定していない加算を点検します。加算による収入の把握は「介護施設の加算収益の集計方法」で解説しています。費用側が主因なら、給与費と委託費を月次で追います。勤務体制や委託契約の内容は、担当者と確認します。

月次で追う数字は、毎月同じ式で出します。式は次のとおりです。

月次で追う数字

計算式

収支差率

(収入−支出)÷収入

稼働率(利用率)

延べ利用者数÷(定員×その月の日数)

利用者1人1日あたり収入・支出

月の収入・支出÷延べ利用者数

給与費割合

給与費÷収入

委託費割合

委託費÷収入

調査の全国値と比べるときは、収入と支出の範囲を調査にそろえます。調査の収入は、介護報酬(利用者負担分を含む)、保険外の利用料、補助金収入の合計です。物価高騰対策関連の補助金は、この収入から除かれています。支出は、介護事業費用、借入金利息、本部費繰入の合計です。本部費を月によって入れたり外したりすると、月ごとの比較ができなくなります。範囲は最初に決めておきます。

給与費と委託費は、割合と金額の両方を記録します。また、1か月だけの変化では、入退所の時期による変動と区別がつきません。同じ式で数か月追ってから、対策の効果を判断します。

原因を項目まで絞り込めれば、職員数や食材料費を一律に削らずに済みます。利用者へのケアの水準を保ったまま、手を打てる箇所を選べます。確認した結果は、担当者を評価するために使うものではありません。収入側と費用側のどちらが主因かを、職員と共有するために使います。そうすると、現場の協力を得やすくなります。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」、厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第1表)

経営情報の報告データの活用

介護サービス事業者には、原則として、経営情報を都道府県知事に報告する義務があります。根拠は、介護保険法第115条の44の2第2項です。報告するのは、事業所・施設ごとの収益と費用、職種別の人員数などです。期限は、毎会計年度の終了後3か月以内です。報告は、介護サービス事業者経営情報データベースシステムで行います。

報告は、原則として事業所・施設の単位で行います。必ず報告する項目は、介護事業収益、給与費、業務委託費、減価償却費、水道光熱費などです。月次で追う給与費や委託費にあたる科目です。月次の管理表の科目を、報告用の科目にそろえておきます。そうすると、年に一度の報告と毎月の確認に、同じデータを使えます。一方、延べ利用者数は報告の項目にありません。稼働率と1人1日あたり収入のためには、別に集計します。

なお、2026年10月時点で、このシステムは一部の報告の受付を止めています。対象は、2025年3月以降に終了する会計年度の報告です。受付停止のために報告できない場合は、3か月以内の期限によらないとされています。再開の時期は、厚生労働省のページで確認してください。

(参考:介護保険法、介護保険法施行規則、厚生労働省「介護保険法第115条の44の2の規定に基づく介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等に関する制度に係る実施上の留意事項について」、厚生労働省「介護サービス事業者の経営情報の調査及び分析等」)

まとめ

介護施設の赤字の原因は、全国の赤字事業所の割合からは分かりません。自施設の収入側3項目と費用側2項目を前年度と比べて、絞り込みます。出発点は、前年度と当年度の決算を同じ科目でそろえることです。そのうえで、一時的な補助金を除いた収支差率を出します。次に、5項目の増減を金額で並べて、主因を1つ決めます。その内訳を同じ式で月次に追いながら、元金返済後に残る資金もあわせて確認します。

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参考