生産性向上推進体制加算は、見守り機器などのテクノロジーを使いながら委員会で業務改善を続け、その効果を示すデータを年に1回厚生労働省へ報告する事業所を評価する加算です。単位数は(Ⅱ)が月10単位、(Ⅰ)が月100単位で、(Ⅰ)が上位区分です。両方を同時に算定することはできません。
この加算で求められるのは、機器を入れることそのものではなく、利用者の安全とケアの質が保たれているかを確かめながら職員の負担を減らす仕組みを回し続けることです。特に(Ⅰ)では、機器を入れる前と後の状態を比べるため、導入前の調査を済ませているかどうかで算定できる時期が変わります。この記事では、対象サービス、(Ⅰ)と(Ⅱ)の要件の違い、(Ⅰ)に必要な成果の確認、実績報告、算定までの準備、処遇改善加算との関係を、2026年9月時点の通知に沿って整理します。
対象 サービスと 単位数
対象は、短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスです。具体的には、介護老人福祉施設(地域密着型を含む)、介護老人保健施設、介護医療院、特定施設入居者生活介護(地域密着型を含む)、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、短期入所生活介護、短期入所療養介護で、介護予防サービスがあるものは介護予防も含みます。訪問系と通所系のサービスは対象外です。単位数は(Ⅱ)が1月あたり10単位、(Ⅰ)が1月あたり100単位です。
なお、これらのサービスでは、加算の要件になっている委員会(利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会)の設置が、2024年度の改定で運営基準に加わりました。2027年3月31日までは努力義務で、2027年4月1日からは加算を算定しない事業所も委員会を開く必要があります。加算を算定するかどうかにかかわらず、委員会の運営は先に整えておくとよいでしょう。
(参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第16号)附則第4条)
(Ⅰ)と (Ⅱ)の 要件の 違い
厚生労働省の通知では、(Ⅱ)の要件に、成果の確認・機器の複数使用・役割分担を加えたものが(Ⅰ)の要件とされています。
要件 | (Ⅱ) 月10単位 | (Ⅰ) 月100単位 |
|---|---|---|
委員会と業務改善 | 委員会を開いて必要な安全対策を講じ、生産性向上ガイドラインに基づく業務改善を続ける | (Ⅱ)と同じ |
使う機器 | 見守り機器・インカム等・介護記録ソフトウェア等のうち1つ以上 | 3種類すべて(見守り機器は全居室に設置し、インカム等は同じ時間帯に勤務する全介護職員が使う) |
成果の確認 | 求められない | (Ⅱ)の要件で提出したデータにより、業務改善の成果が確認されている |
職員間の役割分担 | 求められない | 介護助手の活用などの役割分担と、そのための職員研修 |
実績報告 | 事業年度ごとに1回(3項目) | 事業年度ごとに1回(5項目) |
(Ⅱ)でも、インカム等を使う場合は同じ時間帯に勤務する全介護職員が使う必要があります。厚生労働省は、(Ⅱ)で取組を一定期間続けてから(Ⅰ)に移ることを原則としていますが、(Ⅱ)を経ずに最初から(Ⅰ)を算定することもできます。その場合も、次の節の成果の確認を示すデータが必要です。いまある機器の種類と設置範囲を確かめ、(Ⅱ)から始めるか最初から(Ⅰ)を目指すかを決めるのが最初の判断になります。
対象の機器は3種類です。見守り機器は、利用者がベッドから離れようとしている状態や離れたことを感知し、職員に通報できるセンサーをいいます。インカム等は、マイク付きイヤホンのほか、ビジネス用のチャットツールも含む職員間の連絡を速めるICT機器です。介護記録ソフトウェア等は、データの入力から記録・保存・活用までを一体で支えるもの(複数の機器の連携を含む)に限られます。見守り機器の方式の違いは「見守りシステムとは|検知・通知・記録の3要素と見守りセンサーとの違い」、ICT機器の全体像は「介護ICTとは?導入で解決できる課題の全体像」で解説しています。
(Ⅰ)の役割分担の例として、通知は、負荷が集中する時間帯の業務を細かく分けて平準化すること、特定の介護職員が介助に集中できる時間帯を設けること、食事の準備や清掃など介助を伴わない業務を受け持つ介護助手を置くこと、介助を伴わない業務の一部を外注することを挙げています。どれを行うかは委員会で現場の状況に合わせて検討します。
(参考:厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」令和6年3月15日老高発0315第4号(同年3月29日一部改正))
(Ⅰ)に 必要な 成果の 確認
成果の確認は、(Ⅱ)の要件となる機器を入れたあと、取組を3月以上続けたうえで、導入前後の状態を比べて行います。比べる項目と、成果が確認されたといえる状態は次のとおりです。
比べる項目 | 成果が確認されたといえる状態 |
|---|---|
利用者の満足度等(WHO-5・生活・認知機能尺度) | 悪化がみられない(数値が下がっていない) |
介護職員の1月あたりの総業務時間と超過勤務時間 | どちらも短縮している |
介護職員の年次有給休暇の取得日数 | 維持または増加している |
比べる相手は、原則として導入前と導入後の両方で調査を受けた同じ利用者と同じ介護職員です。育児・介護の短時間勤務制度を使うなどして、比べる期間の途中で勤務形態が変わった職員は比較から除きます。ケアの質を落とさずに職員の負担が減ったことを数字で示す、という考え方なので、業務時間だけが短くなっても利用者の満足度等が下がっていれば成果とは認められません。
開設時から機器をそろえていた施設のように、導入前の状態を知る利用者や職員がいない場合は、利用者へのヒアリングの結果をもとに委員会で満足度等への影響がないことを確かめる方法などが、Q&Aで示されています。これから機器を入れる事業所は、導入日と導入前の調査の時期を先に決めておきましょう。
(参考:厚生労働省 老高発0315第4号、「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.5)(令和6年4月30日)」問12)
実績 報告の 項目と 提出 方法
実績報告は事業年度ごとに1回で、(Ⅱ)は下の表のうち3項目、(Ⅰ)は5項目すべてを報告します。
報告項目 | 報告する区分 | 調べ方と対象・時期 |
|---|---|---|
利用者の満足度等(WHO-5・生活・認知機能尺度) | (Ⅰ)と(Ⅱ) | 利用者向け調査票で、利用者5名程度を調べる((Ⅱ)で機器を入れたフロア等の利用者が5名未満なら全員) |
介護職員の総業務時間と超過勤務時間 | (Ⅰ)と(Ⅱ) | 施設向け調査票で、対象年度の10月の1月あたりの平均を出す(算定を始めた年度は算定開始月) |
介護職員の年次有給休暇の取得日数 | (Ⅰ)と(Ⅱ) | 施設向け調査票で、10月を起点とした直近1年間の平均を出す |
介護職員の心理的負担等(SRS-18)とモチベーションの変化 | (Ⅰ)のみ | 介護職員向け調査票で、全介護職員を調べる |
業務時間の内訳(直接介護・間接業務・休憩等) | (Ⅰ)のみ | 5日間のタイムスタディ調査で、日中と夜間それぞれ複数の介護職員を調べる |
業務時間と有給休暇を調べる対象は全介護職員ですが、(Ⅱ)の場合は機器を入れたフロア等に勤務する介護職員です。労働時間は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録など、客観的な記録で把握することとされています。10月分の勤務時間を平均まで出せるよう、勤怠の記録方法を事前に確かめておくと集計で困りません。利用者の調査は本人または家族等に、心理的負担等の調査は介護職員に説明して同意を得て行い、希望に応じて対象から外すことができます。
報告は、厚生労働省の「電子申請・届出システム」(生産性向上推進体制加算実績報告システム)からオンラインで提出し、あわせて委員会の議事概要を提出します。ログインにはGビズIDを使うほか、2026年9月時点のシステムの画面では、電子請求受付システム(介護)のIDでログインする方法も示されています。2024年度分の提出期限は2025年3月31日とされました。以降の年度の期限は、厚生労働省や指定権者の案内で確認してください。
(参考:厚生労働省 老高発0315第4号、「生産性向上推進体制加算を算定する事業所における生産性向上の取組に関する実績データの厚生労働省への報告について」令和6年9月27日老高発0927第2号)
算定までの 準備の 流れ
- 課題の洗い出しと区分・機器の決定:事業所の現状と業務上の課題を洗い出し、職員ごとの業務と機器の使い方を整理したうえで、課題の解決に必要な機器と、(Ⅱ)から始めるか(Ⅰ)を目指すかを決めます。機器を先に選び、使い道をあとから考えるのはよくある失敗です。
- 機器の導入前の調査:機器を入れる前に、利用者向け調査票と施設向け調査票で導入前の状態を記録します。導入後に導入前の数値を取り直すことはできないため、(Ⅱ)から始める場合でも先に済ませておきます。
- 委員会の立ち上げ:管理者だけでなく、ケアを行う職員を含む幅広い職種やユニットリーダー等が参加する委員会をつくり、3月に1回以上開きます。テレビ電話装置等を使って開くこともできます。議事概要は実績報告で提出するので、開催のたびに残します。管理者層だけで構成して現場の意見が入らない形にしないよう注意します。
- 委員会で検討する事項の確認:機器から得た離床・睡眠などの情報で利用者の状態が保たれているか、機器に起因する事故やヒヤリ・ハット、職員の心身の負担と休憩・時間外勤務の状況、機器の不具合チェックの仕組みとメーカー等と連携した定期点検、職員研修を検討し、実施状況を確かめます。業務の効率化で生まれた時間は、ケアの質の確保と職員の負担軽減に優先して充てることとされています。見守り機器に任せきりにして、安全面で特に注意が必要な利用者の定時巡回を検討しないのはよくある失敗です。
- 見守り機器の設置に関する同意:見守り機器を居室に置く前に、利用者または家族等に必要な説明を行い、同意を得ます。意向に応じて機器の使用を止める運用は認められます。機器をあとから追加した居室で、説明と同意を取り忘れないようにします。
- 体制等の届出:指定権者に加算の届出を出します。締切と算定開始月の扱いは指定権者の案内で確かめてください。(Ⅱ)から(Ⅰ)に切り替えるときは、成果を示すデータ(別紙2)を届出書に添付します。導入前後の比較が終わる前に(Ⅰ)で届け出ないよう注意します。
- 実績報告の提出:事業年度ごとに、前の節の項目を実績報告システムで提出します。自己申告の勤務時間だけで集計せず、タイムカードなどの記録から平均を出します。
(参考:厚生労働省 老高発0315第4号)
処遇 改善 加算 Ⅰ ロ・ Ⅱ ロの 特例 要件との 関係
2026年6月から設けられた介護職員等処遇改善加算の上位区分(Ⅰロ・Ⅱロ)では、2026年度特例要件として、生産性向上や協働化の取組のいずれかが求められます。施設・居住サービス、多機能サービス、短期入所サービス等の場合、その選択肢の一つが生産性向上推進体制加算(Ⅰ)または(Ⅱ)の算定です。処遇改善加算の申請時点で算定していなくても、算定を誓約すれば要件を満たすものとして扱われ、実績報告書で算定したことを報告します。また、処遇改善加算の職場環境等要件のうち「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」は、生産性向上推進体制加算を算定していれば満たすものとされます。処遇改善加算の区分と申請の準備は「介護職員等処遇改善加算の区分と要件」で解説しています。
(参考:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」令和8年3月13日老発0313第6号)
まとめ
(Ⅱ)は委員会での業務改善、機器1つ以上の使用、年1回の実績報告で算定でき、(Ⅰ)はそれに加えて導入前後の比較による成果の確認、3種類の機器の使用、職員間の役割分担が必要です。
準備の出発点は、機器を入れる前の利用者と職員の状態を調査票で記録しておくことです。この記録があれば、(Ⅱ)から始めても、あとで(Ⅰ)に移るときの比較に使えます。
次に、算定する区分と機器を入れるフロアを決め、委員会の開催日程と導入前調査の時期を、指定権者への届出の締切から逆算して組んでください。機器の購入費用については、都道府県の補助を使える場合があります(「介護テクノロジー導入で活用できる支援制度をやさしく解説」)。
参考
- 厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」(令和6年3月15日老高発0315第4号、同年3月29日一部改正):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001238520.pdf
- 厚生労働省「生産性向上推進体制加算を算定する事業所における生産性向上の取組に関する実績データの厚生労働省への報告について」(介護保険最新情報Vol.1315、令和6年9月27日老高発0927第2号):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001316483.pdf
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230329.pdf
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.5)(令和6年4月30日)」:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001250798.pdf
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第16号)附則第4条(e-Gov法令検索「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」の附則で確認できます):https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(令和8年3月13日老発0313第6号):https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf
- 厚生労働省「生産性向上推進体制加算実績報告システム」:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/shinsei/report/

