介護施設の人件費率は、厚生労働省の介護事業経営概況調査で「収入に対する給与費の割合」として公表されています。2024年度決算では、介護老人福祉施設(特養)・介護老人保健施設(老健)・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が63〜64%台、介護医療院が60.4%で、特定施設入居者生活介護だけが43.6%と大きく離れています。

自施設の率をこの全国値と比べるには、給与費と収入の範囲を調査にそろえ、率が動いたときに収入と給与費のどちらが動いたかを分けて見る必要があります。この記事では、施設系サービスと特養の定員規模別の値、率の読み方、2026年度に比べるときの注意点、自施設での出し方を扱います。数値は、2026年9月時点で公表されている最新の結果である2025年5月実施の概況調査(2024年度決算)によります。

施設系サービスの給与費割合(2024年度決算)

概況調査の「収入に対する給与費の割合」は、1施設あたりの給与費を、介護サービスの収入(介護報酬・保険外の利用料・補助金。物価高騰対策関連の補助金は除く)で割った値です。施設系サービスの値は次のとおりです。

サービス

2024年度決算

2023年度決算

介護老人福祉施設

63.5%

63.8%

地域密着型介護老人福祉施設

64.0%

64.3%

介護老人保健施設

64.3%

65.0%

介護医療院

60.4%

60.4%

認知症対応型共同生活介護

63.5%

63.4%

特定施設入居者生活介護

43.6%

43.8%

特定施設入居者生活介護の率が低いのは、収入の構成が違うためです。2024年度決算の1施設あたりの月額では、保険外の利用料による収入(12,687千円)が介護料収入(11,028千円)を上回っています。分母に保険外の収入が多く入るため、同じ人員体制でも率は低く出ます。自施設の率と比べるときは、同じサービスの値を使うと分かりやすいでしょう。収入と費用の内訳は「介護施設の収益構造」で、サービス別に整理しています。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」、「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第11表)

特養の定員規模別の給与費割合

介護老人福祉施設の2024年度決算を定員規模別に見ると、給与費割合は次のとおりです。

定員規模

給与費割合(2024年度決算)

定員30人

64.2%

定員31〜50人

65.8%

定員51〜80人

64.0%

定員81〜100人

62.1%

定員101人以上

61.6%

定員81人以上の区分では率がやや低く、最も高い31〜50人との差は4.2ポイントです。ただし、これは区分ごとの平均で、同じ区分の中でも施設ごとの差があります。全国値との差が数ポイントであれば、それだけで高い・低いと決めず、次の節の方法で理由を確かめるほうが確実です。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第70表)

率が動いたときの分母と分子の切り分け

人件費率は給与費を収入で割った値なので、給与費が変わらなくても収入が減れば率は上がります。率が動いたときは、次のどちらが動いたかを分けて確かめます。

  • 分母(収入):稼働率の低下や空床、要介護度の構成の変化、算定する加算の増減で動きます。
  • 分子(給与費):賃上げ、残業の増減、欠員とその補充、派遣職員の受け入れで動きます。

たとえば、率が上がった月に延べ利用者数が減っていれば、原因は人員ではなく稼働の側にあります。この場合、職員を減らしても稼働は戻らないため、まず空床の理由を確かめます。稼働率の出し方は「介護施設の稼働率の計算方法」で解説しています。また、人件費率が同じでも、ほかの費用によって利益は変わるので、収支差率とあわせて見ると判断を誤りにくくなります(「介護施設の利益率は収支差率で確認」)。

2026年度の比較で注意する処遇改善加算の影響

介護職員等処遇改善加算を算定する事業者は、加算の算定額に相当する賃金改善を行う必要があり、賃金改善には法定福利費などの事業主負担の増加分を含めることができます。加算の分は収入と給与費の両方に入るため、給与費割合が100%より低い施設では、加算が増えるほど率は上がります。

2026年度の期中改定では、処遇改善加算の対象が介護職員から介護従事者に広がり、2026年6月から加算率が引き上げられました。生産性向上や協働化に取り組む事業者向けの上乗せ区分(加算Ⅰロ・Ⅱロ)もできています。2026年度の率を前年度と比べるときは、加算の増えた分と、それに対応する賃金改善の分を分けて見ると、人員体制の変化による動きと区別できます。加算の区分と加算率は「介護職員等処遇改善加算の区分と要件」で確認できます。

(参考:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」、「令和8年度介護報酬改定について」)

自施設の人件費率の出し方

自施設の人件費率は、給与費を収入で割って求めます。全国値と比べるときは、何を給与費と収入に入れるかを調査にそろえることが大切で、範囲がずれると率が数ポイント変わることもあります。ここでは、説明のために作った仮の特養の1か月分の数字で、計算の流れを示します。表の金額は例であり、全国の平均値ではありません。

区分

項目(仮の特養の1か月分)

金額

計算に入れるか

給与費

基本給・手当

1,250万円

入れる

給与費

賞与(年額1,800万円を12で割った額)

150万円

入れる

給与費

法定福利費(社会保険料の事業主負担など)

200万円

入れる

給与費

退職給付費用

30万円

入れる

給与費以外の費用

給食・清掃の委託費

150万円

入れない(調査では給与費ではなく「その他」の費用)

収入

介護報酬(利用者負担分を含む)

2,000万円

入れる

収入

保険外の利用料

500万円

入れる

収入

物価高騰対策の補助金

30万円

入れない(調査の基本の値では除く)

この例では、給与費は1,250万円+150万円+200万円+30万円で1,630万円、収入は2,000万円+500万円で2,500万円なので、人件費率は1,630万円÷2,500万円で65.2%です。範囲を誤ると、同じ施設でも数字が変わります。委託費150万円を給与費に入れると1,780万円÷2,500万円で71.2%と高く出て、物価高騰対策の補助金30万円を収入に入れると1,630万円÷2,530万円で64.4%と低く出ます。

毎月の計算は、次の順に進めます。

  1. 給与費の範囲の決定:基本給・手当・賞与・法定福利費・退職給付費用を含め、給食や清掃の委託費は入れません。派遣職員の費用は、含めるかどうかを決めて毎月同じ扱いにします。よくある失敗は、賞与を支給月だけに計上して、その月の率が跳ね上がることです。上の例で、年2回の賞与のうち900万円を12月にまとめて計上すると、12月の給与費は2,380万円になり、率は95.2%まで上がります。年額を12で割って毎月に割り振ると、月ごとの比較ができます。
  2. 収入の範囲の決定:介護報酬(利用者負担分を含む)、保険外の利用料、補助金を合計し、物価高騰対策の補助金は除きます。よくある失敗は、物価高騰対策の補助金を収入に入れて、率が低く見えることです。
  3. 月次の率の算出と前年同月との比較:毎月、給与費を収入で割り、前年の同じ月の率と比べます。前月とだけ比べると、賞与や加算の時期、月の日数の違いで動いた分を、人員の変化と取り違えることがあります。
  4. 人員と稼働の数字の並記:延べ利用者数、常勤換算職員数、常勤換算1人あたりの給与費を率の横に並べます(下の表を参照)。率だけを見て人員を減らす判断をしないことが大切です。参考として、2025年5月実施の概況調査では、介護老人福祉施設の看護・介護職員(常勤換算)1人あたり利用者数は2.0人でした。
  5. 部署・職種別の確認:フロアやユニット、職種ごとに給与費を分けます。施設全体の率が前年と変わらなくても、あるユニットだけ欠員を残業や派遣で埋め続けていて、給与費が増えていることがあります。率が高い部署では、欠員補充の残業や派遣が続いていないかを確かめます。

手順4の並べ方を、同じ仮の施設で前年同月と比べた例で示します。

項目

前年同月

今月

収入

2,500万円

2,420万円

給与費

1,630万円

1,630万円

人件費率

65.2%

67.4%

延べ利用者数

2,350人日

2,280人日

常勤換算職員数

52.0人

52.0人

常勤換算1人あたり給与費

31.3万円

31.3万円

人件費率は2.2ポイント上がっていますが、給与費と職員数、1人あたりの給与費は変わっていません。延べ利用者数が70人日減り、それに合わせて収入が減ったことで率が上がっています。前の節で見たとおり、この場合の原因は人員ではなく稼働の側にあるため、職員を減らす前に空床の理由を確かめます。

人件費率は、下げること自体を目的にする指標ではありません。人員配置基準や勤務体制、職員の処遇を保ちながら収支を合わせるための手がかりとして使うと、入居者へのケアの水準を落とさずに経営上の課題を見つけやすくなります。

(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第1表、「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」)

まとめ

介護施設の人件費率は、収入に対する給与費の割合で見ます。自施設の率は、給与費と収入の範囲を概況調査にそろえて月次で出し、同じサービスの全国値と前年同月の値の両方と比べることから始めます。率が動いたら、延べ利用者数と常勤換算職員数を並べて、収入と給与費のどちらが動いたかを確かめてください。2026年度は処遇改善加算の拡充で率が上がりやすいため、加算の分を分けて比べます。

参考