介護施設の利益率にあたる公的な指標は「収支差率」です。厚生労働省の介護事業経営概況調査で使われています。2024年度決算の全サービス平均は4.7%で、2023年度決算と同じ水準でした。一方、介護老人福祉施設(特養)は1.4%、介護老人保健施設(老健)は0.6%で、平均を大きく下回ります。
自施設の数字を調査と同じ定義で計算すると、同じ種別の平均と並べて位置を確かめられます。前年度からの変化も、同じ物差しで追えます。
この記事は「令和7年度介護事業経営概況調査」(2024年度決算)をもとにしています。2026年10月時点で最新の公表結果です。収支差率の定義、施設・居住系サービスの水準と赤字事業所の割合、自施設での計算手順を整理します。
収支差率の 定義と 公表値の 3つの 種類
調査は、収支差率を次の式で求めています。「(介護サービスの収入額 − 介護サービスの支出額)÷ 介護サービスの収入額」です。収入額は、次の3つの合計です。介護報酬による収入(利用者負担分を含む)、保険外の利用料による収入、補助金収入です。補助金収入からは、物価高騰対策関連補助金を除きます。支出額は、介護事業費用、借入金利息、本部費繰入の合計です。本部費繰入は、社会福祉法人会計基準では特別損失に計上されます。ただし、調査では支出に含めています。各事業所に共通する人事・労務・経理の経費に充てるものだからです。
結果は3通りで公表されます。基本の値は、物価高騰対策関連補助金を含まない税引前の収支差率です。このほかに、同補助金を含む税引前の値と、含む税引後の値が示されています。この記事の数値は、断りがなければ基本の値です。
(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」)
施設・ 居住系 サービスの 収支差率と 赤字 事業所の 割合
同調査から、介護保険施設と居住系サービスの値を抜き出すと次のとおりです。
サービス種別 | 2024年度決算の収支差率 | 2023年度決算の収支差率 | 赤字事業所の割合(2024年度決算) |
|---|---|---|---|
介護老人福祉施設(特養) | 1.4% | 1.3% | 44.3% |
地域密着型介護老人福祉施設 | 2.2% | 1.9% | 40.7% |
介護老人保健施設(老健) | 0.6% | ▲0.6% | 49.3% |
介護医療院 | 3.5% | 4.2% | 39.6% |
特定施設入居者生活介護 | 5.3% | 4.5% | 27.4% |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 0.4% | 0.5% | 45.9% |
認知症対応型共同生活介護 | 4.9% | 4.5% | 30.7% |
全サービス平均 | 4.7% | 4.7% | 37.5% |
介護保険施設(特養・老健・介護医療院)の収支差率は0.6%〜3.5%で、全サービス平均を下回ります。調査の区分で「施設サービス」にあたる事業所は、44.8%が赤字でした。表のどの種別でも、赤字の事業所が27.4%〜49.3%あります。そのため、平均との差だけで自施設の良し悪しは決まりません。比べる相手は同じ種別にそろえ、自施設の前年度の値とあわせて見ます。赤字の原因の探し方は、「介護施設が赤字になる原因の探し方」で解説しています。
(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」)
平均値を 自施設と 比べるときの 注意
この調査は全数調査ではありません。2025年5月に、全ての介護保険サービスを対象に行われました。層化無作為抽出法で選んだ17,528の施設・事業所に、調査票を送っています。有効回答は8,099(有効回答率46.2%)でした。主な種別の有効回答数は、介護老人福祉施設1,096、介護老人保健施設475、介護医療院303です。特定施設入居者生活介護は445、認知症対応型共同生活介護は326でした。回答数の少ない種別ほど、個々の事業所の数字が平均に影響しやすくなります。
全サービス平均は、単純平均ではありません。総費用額に占める各サービスの費用額の割合で重みを付けた、加重平均です。施設の比較には、全サービス平均ではなく、自施設と同じ種別の値を使います。平均値は自施設の位置を見る目安です。施設の優劣を判定するものではありません。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の値は、この調査にありません。調査の区分が、介護保険サービスの種別だからです。特定施設入居者生活介護の指定を受けたサ高住は、特定施設の値と比べます。
(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」、社会保障審議会介護給付費分科会(第221回)資料4「特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護」)
自施設の 収支差率の 計算 手順
自施設の収支差率は、決算書や月次の損益計算書から次の順に出せます。
- 比べる単位をそろえます。調査の値はサービス種別ごとです。併設の短期入所や通所がある場合は、どの範囲の収支で計算するかを決め、毎年そろえます。よくある失敗は、法人全体の数字を種別の平均と比べることです。
- 収入を、介護報酬(利用者負担分を含む)、保険外の利用料、補助金の3つに分けます。よくある失敗は、利用者負担分を介護報酬の収入から漏らすことです。
- 支出に、借入金利息と本部費繰入を含めます。よくある失敗は、社会福祉法人会計で特別損失とした本部費繰入を外すことです。
- 物価高騰対策関連補助金を除いた値と、含めた値の両方を出します。よくある失敗は、どちらの式かを記録せず、年度によって混ざることです。
- 前年度・前々年度の同じ式の値と並べます。同じ種別の平均は、参考値として添えます。よくある失敗は、税引後の値を調査の基本の値(税引前)と比べることです。
補助金を含めるかどうかで数値は変わります。調査でも、介護老人福祉施設は補助金を除くと1.4%、含めると1.6%でした。収支差率が下がっていた場合は、収入と支出のどちらが動いたかを分けて見ます。支出の大部分を占める給与費の見方は、「介護施設の人件費率の出し方」で解説しています。収入と費用の内訳は、「介護施設の収益構造」で確かめられます。
収支差率を同じ定義で追うと、処遇改善や設備の更新に回せる額を判断できます。利用者へのサービスを続ける計画も立てやすくなります。
(参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」)
まとめ
介護施設の利益率は、調査と同じ定義の収支差率で見ると、同じ種別の平均と比べられます。まず、自施設の直近の決算を、調査の基本の式で計算してください。本部費繰入と借入金利息を支出に含め、物価高騰対策関連補助金を除く式です。次に、補助金を含めた値と前年度・前々年度の値を並べ、同じ種別の平均と比べます。

