加算の返還は、要件を満たさずに請求していた理由によって、扱いが2つに分かれます。1つは、制度の理解不足などによる単なる誤りです。事業所が自己点検をして、過誤調整で返します。過誤調整は、請求を取り下げて正しく出し直す手続です。もう1つは、偽りその他不正の行為による不正請求です。監査で事実が確認されたうえで徴収されます。返還額に加えて、その40%の額を徴収される場合もあります。

どちらに当たるかで、手続も金額も変わります。誤りに気づいたら、自己判断で処理を進めず、事実を記録で整理して保険者に相談します。この記事では、返還が生じる場面、誤りと不正の違い、返還の範囲と計算例を扱います。利用者負担分の返還と、気づいたときの手順も整理します(2026年10月時点)。

返還が生じる場面

加算の届出と請求の取扱いは、留意事項通知(老企第36号)の「第1 届出手続の運用」に定められています。短期入所・特定施設・施設サービスの通知(老企第40号)も、この部分を準用しています。届出と体制のずれから返還が生じる場面は、次の3つです。

場面

返還の扱い

事後調査などで、届出の時点から要件を満たしていなかったと分かり、指導しても改善されない

届出の受理が取り消され、届出はなかったことになるため加算全体が無効になる。受け取っていた介護給付費は不当利得として返還する

事後調査などで、届出の時点から要件を満たしていなかったと分かり、指導後に改善された

要件を満たすまでは算定できない。要件を満たしていないと分かった時点までに算定していた加算は、不当利得として返還する

届出後に要件を満たさなくなったのに、その旨を届け出ずに請求を続けた

算定できなくなった事実が生じた日以降の加算が、不当利得として返還の対象になる。留意事項通知はこの請求を不正請求としている

このほか、運営指導や監査で見つかった場合にも返還が生じます。加算の算定要件を1つでも満たさずに請求していた場合です。その扱いは、次の節のとおり2つに分かれます。どの場面に当たるかは、記録を照らし合わせると判断の材料がそろいます。届出の控えと、算定した月の勤務表やサービス提供記録です。加算を算定できなくなったときの届出は「介護加算の届出(体制届)の流れ」で解説しています。

(参考:厚生労働省 老企第36号「実施上の留意事項について」第1 届出手続の運用、同 老企第40号 第1 届出手続の運用、同「介護保険施設等 運営指導マニュアル」Ⅰ 基本編 第3章 第2節 運営指導)

単なる誤りと不正請求の扱いの違い

運営指導マニュアルは、不正請求と単なる誤りを分けて説明しています。

区分

例

扱い

単なる誤り

加算の算定要件の一部を満たしていないのに請求した

自己点検のうえ過誤調整を行うよう指導される。この指導は行政指導で、強制されるものではない

不正請求

サービスを行っていないのに請求した、人員が不足しているのに満たしているように装って加算を請求した

監査で事実を確認し、指定取消などの処分が検討される。介護保険法第22条第3項により、返還させるべき額に加えて、その額に40%を乗じた額を徴収できる

誤りか不正かは、行政が監査などで事実関係を確かめて判断します。事業所が決めるものではありません。マニュアルは、請求の不整合を初めからすべて単なる誤りとして扱うのは適切でないとしています。監査の結果、不正ではないと判断される場合もあるとしています。このため、誤りに気づいたら、対象の月・利用者・加算を記録で整理します。次に、経緯を添えて保険者に相談します。

(参考:厚生労働省「介護保険施設等 運営指導マニュアル」Ⅰ 基本編 第3章 第2節 運営指導、同「介護保険施設等に対する監査マニュアル」3.4.1・3.4.2)

返還の範囲

返還の根拠になるのは報酬基準です。運営指導マニュアルは、運営基準の違反だけでは、基本報酬の返還や過誤調整を求められないとしています。運営基準は、人員や運営に関する基準です。加算の場合、返還が必要になるのは算定要件を満たしていなかった場合です。

過誤調整で返す額は、すでに支払われた請求額と正しい請求額との差額です。たとえば、通所介護の入浴介助加算(Ⅰ)は1日につき40単位です。月8日分を誤って算定していた人では、外す単位数は320単位です。1単位の単価が10円の地域なら、費用の額で3,200円です。利用者負担が1割の人なら、保険者へ返す差額は2,880円です。残りの320円は、利用者に返します。処遇改善加算は、基本報酬と加算の合計に加算率を掛けて求めます。実際には、その分も減ります。

減算せずに請求し、不正請求と認定された場合も、返還の対象は基本報酬の全額ではありません。原則として減算分のみです。40%の加算金も、減算分に対して計算されます。

さかのぼって返還を求められる期間は、監査マニュアルに示されています。消滅時効は、過誤調整による差額の返還請求権が5年です。不正請求の徴収金は2年です(介護保険法第200条)。どこまでさかのぼって点検するかは、保険者の指示に従います。

(参考:厚生労働省「介護保険施設等 運営指導マニュアル」Ⅰ 基本編 第3章 第2節 運営指導、同「介護保険施設等に対する監査マニュアル」3.4.3・3.4.4・3.4.6、同「介護報酬の算定構造のイメージ(R8.6.1)」、厚生労働大臣が定める一単位の単価(平成27年厚生労働省告示第93号)、介護保険法第41条第4項)

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利用者負担分の返還

不当利得を市町村へ返還することになった事業所は、利用者にも返還します。届出の時点から要件を満たしていなかった場合や、算定できなくなった後も請求を続けた場合です。返すのは、返還の対象になった介護給付費に係る利用者負担金の過払い分です。市町村への返還と同時に返します。返還には、返還金に係る計算書を付けます。利用者やご家族の方から受領書を受け取り、事業所で保存します。

過誤調整で訂正する場合も、利用者負担額は誤った単位数で計算されています。差額の返し方は、保険者に確認します。利用者やご家族の方には、どの月のどの加算を誤り、いくら返すのかを書面で説明します。書面があれば、理由と金額を利用者側が確かめられます。

(参考:厚生労働省 老企第36号「実施上の留意事項について」第1 届出手続の運用)

返還が必要かもしれないと気づいたときの手順

  1. 対象の月・利用者・加算・単位数を、請求明細とサービス提供記録で洗い出します。気づいた月だけを調べて、前後の月を見落とす失敗がよくあります。
  2. 要件を満たしていた期間と満たしていなかった期間を、勤務表や届出の控えで分けます。記憶や口頭の確認だけで期間を決めないようにします。
  3. 保険者(市町村)に相談します。誤りか不正かを事業所だけで決めて、処理を先に進めないようにします。

連絡する前の整理と再請求の内容は「介護加算の過誤請求への対応」で解説しています。過誤申立の手続は「介護請求の過誤とは」で確かめられます。点検の進め方は「介護加算の自己点検のやり方」で解説しています。原因の切り分けは「介護加算が算定できない5つの原因」で整理しています。

まとめ

加算の返還は、単なる誤りなら自己点検と過誤調整で差額を返します。不正請求なら監査を経て徴収され、40%の加算金が加わる場合があります。どちらに当たるかは、行政が判断します。事業所の出発点は、対象の月・利用者・加算を記録で洗い出し、保険者に相談することです。次に、保険者の指示に沿って過誤調整や返還を進めます。利用者負担分を説明して返すことで、利用者が負担した費用を正しい額に戻せます。

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参考