介護の減算は、人員や定員の基準、虐待防止や業務継続計画などの運営上の措置を満たしていない場合に、基本報酬が所定の割合で差し引かれる仕組みです。どの減算があり、割合がいくつかは、サービスごとに定められています。
減算は、欠員や記録の不備が起きた時点では気づきにくく、判明したときには数か月分の請求に影響していることがあります。また、減算の要件の多くは、利用者が安全に適切なサービスを受けるための基準でもあります。この記事では、2026年9月時点の厚生労働省の資料に沿って、主な減算の種類と割合、運営上の措置の要件、人員欠如減算が始まる月と2026年6月からの猶予、減算中に算定できなくなる加算、月次の確認手順を扱います。介護報酬全体の仕組みは「介護報酬とは」、減算のもとになる基本報酬は「基本報酬とは」で解説しています。
主な 減算の 種類と 割合
減算の原因は、大きく分けて、人員・定員の基準を満たしていない場合、運営上の措置を講じていない場合、事業所と利用者の住まいの位置関係による場合の3つです。主な減算は次のとおりです(2024年度介護報酬改定後の内容)。
減算の種類 | 主な対象サービス | 減算の割合 | 減算になる状態 |
|---|---|---|---|
定員超過利用減算 | 通所介護(例) | 所定単位数に100分の70を乗じて算定 | 月平均の利用者数が、運営規程に定めた利用定員を超えている |
人員基準欠如減算 | 通所介護(例) | 所定単位数に100分の70を乗じて算定 | 看護職員または介護職員が、人員基準で定める員数に満たない |
業務継続計画未実施減算 | 居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービス | 施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1 | 業務継続計画を策定していない、または計画に従った措置を講じていない |
高齢者虐待防止措置未実施減算 | 居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービス | 所定単位数の100分の1 | 虐待防止のための4つの措置のいずれかを講じていない |
身体拘束廃止未実施減算(2024年度新設分) | 短期入所系サービスと多機能系サービス | 所定単位数の100分の1 | 身体的拘束等の適正化のための措置を講じていない |
人員基準欠如減算と定員超過利用減算は、通所介護以外のサービスにも設けられています。人員基準欠如減算は、通所・多機能・入所・居住系サービスで原則3割減算とされていますが、対象となる職種や欠員の数え方はサービスごとに異なります。自事業所のサービスで何が対象になるかは、単位数表と留意事項通知の該当箇所で確かめてください。なお、施設・居住系サービスの身体拘束廃止未実施減算は2006年度から別に設けられており、表の短期入所系・多機能系とは割合が異なります。
業務継続計画未実施減算の経過措置は2025年3月31日で終わっており、現在は対象の全サービスで適用されます。一方、高齢者虐待防止措置未実施減算は、福祉用具貸与に限り、2024年度から3年間の経過措置期間が設けられています。
住まいの位置関係による減算の例が、訪問介護の同一建物減算です。事業所と同一敷地内または隣接する敷地内の建物に住む利用者へのサービスは10%減算、その建物に住む利用者が1月あたり50人以上なら15%減算となります。それ以外の建物でも、住んでいる利用者が1月あたり20人以上なら10%減算です。さらに2024年度改定で、正当な理由なく、前6月間に提供したサービスの9割以上が同一敷地内などの建物に住む利用者向けだった場合の12%減算が加わりました。
(参考:厚生労働大臣が定める利用者等の数の基準及び看護職員等の員数の基準並びに通所介護費等の算定方法、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」、厚生労働省「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い(報告)」社保審-介護給付費分科会 第255回 資料3)
運営上の 措置で 求められる 要件
運営上の措置に関する減算は、虐待や身体拘束が起きたかどうかではなく、措置を講じているかどうかで決まります。高齢者虐待防止措置未実施減算は、4つの措置の1つでも講じられていなければ減算になるとQ&Aで示されており、身体拘束廃止未実施減算も、身体的拘束等をしていない場合であっても、措置がなされていなければ減算の適用となります。措置ごとに、実施したことを記録で示せるかを確かめておくことが大切です。
減算の種類 | 講じる措置 |
|---|---|
高齢者虐待防止措置未実施減算 | 虐待防止の対策を検討する委員会(テレビ電話装置等の活用可)を定期的に開催し結果を従業者に周知する。虐待防止の指針を整備する。従業者に虐待防止の研修を定期的に実施する。これらを適切に実施するための担当者を置く |
業務継続計画未実施減算 | 感染症や非常災害の発生時にサービス提供を継続し、早期に業務を再開するための計画(業務継続計画)を策定する。その計画に従い必要な措置を講じる |
身体拘束廃止未実施減算(短期入所系・多機能系) | 身体的拘束等を行う場合に、その態様と時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録する。適正化のための委員会を3月に1回以上開催し結果を従業者に周知する。指針を整備する。研修を定期的に実施する |
業務継続計画は、感染症と災害のどちらか一方でも策定していなければ減算の対象になります。虐待防止の研修の回数は、施設・居住系サービスは年2回以上、訪問系・通所系・短期入所系・多機能系サービスや居宅介護支援などは年1回以上とされています。
運営指導などで未実施が見つかったときの扱いも、減算によって異なります。業務継続計画未実施減算は、基準を満たさない事実が生じた時点までさかのぼって適用されます。一方、高齢者虐待防止措置未実施減算と身体拘束廃止未実施減算はさかのぼって適用されず、見つかった日の属する月が「事実が生じた月」として扱われます。業務継続計画は、策定日と見直し日を記録に残しておくと、いつから基準を満たしているかを示せます。
(参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」、厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1225」、厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1345」)
人員 欠如 減算が 始まる月
介護職員・看護職員の欠員は、人員基準で必要な員数からどれだけ減ったかによって、減算が始まる月が変わります。1割を超えて減った場合は、その翌月から人員基準欠如が解消する月まで減算されます。1割の範囲内の減少なら、減算はその翌々月からで、翌月の末日までに人員基準を満たせば減算されません。欠員が出たときは、まず1割を超えるかどうかと、翌月末までに補充できるかを確かめると、減算の有無と開始月の見通しが立ちます。対象となる職種と欠員の数え方は、サービスごとの留意事項通知で確かめてください。
(参考:厚生労働省「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い(報告)」社保審-介護給付費分科会 第255回 資料3、厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1502」)
2026年 6月 算定分からの 人員 欠如 減算の 猶予
2026年6月の算定分から、突発的で想定が困難な事象によってやむを得ず人員欠如となった場合に、要件を満たせば、1年に1回に限り、人員欠如が生じた月の翌々月まで減算の適用を猶予する取扱いが加わりました。「やむを得ない事情」の例として、Q&Aでは、職員や家族の突発的な体調不良などで1か月を超える不在が見込まれる場合や、職員の自己都合による急な離職が複数重なった場合が挙げられています。1年は、人員欠如が生じた月の翌々月の初日から数えます。
猶予を受けるには、次のすべてに当てはまることが必要です。
- ハローワーク(公共職業安定所)や、都道府県ナースセンター・福祉人材センターなどの無料の職業紹介事業を活用して、職員の確保に取り組んでいる
- 民間の職業紹介事業者を利用する場合は、医療・介護・保育分野の適正な有料職業紹介事業者認定制度による適正認定事業者を含めている
- 一部の職員に過度な業務負担がかからないよう、職員の労働時間を適正に管理し、体制の整備に努めている
あわせて、職員の確保の取組とやむを得ない事情であることを所定の様式に記載し、人員欠如が生じた月の翌月までに報告します。報告の時点で有効な求人票の写しの添付が必要です。報告先は、通知では都道府県知事、地域密着型サービスは市町村長とされているため、提出先と様式は指定権者の案内で確かめてください。
猶予の対象は、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所系、特定施設、介護保険施設、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、多機能系、認知症対応型共同生活介護などのサービスです。介護職員・看護職員が必要な員数から1割を超えて減少した場合は、猶予の対象になりません。猶予は減算の適用を先に延ばす取扱いであり、人員基準を満たす義務がなくなるわけではない点にも注意が必要です。
(参考:厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1502」、厚生労働省「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い(報告)」社保審-介護給付費分科会 第255回 資料3)
減算中に 算定できなくなる 加算
減算の影響は、基本報酬だけにとどまらないことがあります。たとえば、通所介護・地域密着型通所介護の個別機能訓練加算は、人員欠如減算・定員超過減算に該当している場合は算定しません。減算に該当したら、算定中の加算の要件に「減算に該当していないこと」が含まれていないかを確かめてください。加算の要件の確かめ方は「介護の加算とは」、個別機能訓練加算の要件は「個別機能訓練加算」で解説しています。
(参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」)
減算を 防ぐ月次の 確認 手順
減算は、欠員のタイミングや要件の見落としで生じることが多く、担当者1人の注意だけでは防ぎきれません。確認する担当と日程を事業所内で決め、毎月次の順に確かめると、請求前に気づけるようになります。
- 前月の勤務実績から、職種ごとの配置が人員基準を満たしているかを確かめる。よくある失敗は、勤務予定表だけで判断し、急な欠勤や退職を反映しないことです。
- 前月の月平均の利用者数が、運営規程の利用定員を超えていないかを確かめる。介護予防や第一号通所事業を一体的に運営している場合は、その利用者数も合計して数えます。
- 欠員が出ていたら、1割を超えるかどうかと翌月末までに補充できるかを確かめ、猶予の要件に当たりそうなら求人と報告の準備を進める。報告期限の「人員欠如が生じた月の翌月まで」を過ぎないよう注意してください。
- 虐待防止の委員会・研修、業務継続計画に沿った措置、(短期入所系・多機能系は)身体拘束適正化の委員会・研修について、実施日と参加者の記録を確かめる。指針や計画があっても、実施の記録が残っていないことがよくあります。
- 減算に該当した場合は、指定権者の案内に沿って届出と請求に反映し、算定中の加算への影響も確かめる。加算を減算前と同じように請求し続けることがないよう注意してください。
まとめ
減算は、人員・定員の基準や運営上の措置を満たしていない場合に、サービスごとに定められた割合で基本報酬が下がる仕組みです。まず、自事業所のサービスにどの減算があるかを単位数表と留意事項通知で確かめ、この記事の月次の確認手順を事業所の点検表に落とし込んでください。欠員が生じたときは、1割を超えるかどうかと猶予の要件を確かめ、報告の期限と提出先を指定権者に確認します。
参考
- 厚生労働大臣が定める利用者等の数の基準及び看護職員等の員数の基準並びに通所介護費等の算定方法(平成12年厚生省告示第27号)(厚生労働省 法令等データベース)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
- 厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1225」(令和6年3月15日、令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1))
- 厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1345」(令和7年1月20日)
- 厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1502」(令和8年5月8日)
- 厚生労働省「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い(報告)」(社保審-介護給付費分科会 第255回 資料3、R8.3.30)

