介護施設において、紙の請求書を電子化する動きは、単なる業務効率化にとどまらず、電子帳簿保存法への対応という側面もあります。結論として、システムを導入して終わりにするのではなく、利用者・取引先への周知から電子データの保存体制までを含めた一連の移行として進める必要があります。
全ての請求先を一斉に切り替えようとすると、紙を希望する利用者への対応が後手に回ることがあります。介護施設では利用者の年齢層や家族の状況にばらつきがあるため、段階的な移行が現実的です。
介護施設が請求書電子化を進める背景には、電子帳簿保存法がある
国税庁の電子帳簿保存法一問一答では、令和6年1月以降、メールやWebサービスなど電子的に授受した請求書のデータは、紙に印刷して保存するのではなく、原則として電子データのまま保存することが求められています。介護施設が委託業者や物品取引先から電子請求書を受け取っている場合、この保存義務がすでに発生している可能性があります。
つまり請求書電子化は、業務効率化のために任意で行うことというより、一部はすでに法律で定められた対応になっているという理解が出発点になります。
電子データの保存で満たすべき2つの要件
真実性の確保:タイムスタンプの付与、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用、または訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用するいずれかの方法を満たす
可視性の確保(検索要件):日付・金額・取引先の3項目で検索できる状態にしておく
ただし、前々年(前々事業年度)の売上高が5,000万円以下の事業者は、検索機能の要件は不要とされています(データそのものの保存は必要です)。小規模な介護施設が該当する場合もあるため、自施設の規模にあわせて必要な対応を確認してください。
介護施設における電子化の移行手順
①現状把握:介護施設内で紙のまま発行・受領している請求書の件数、取引先を洗い出す
②システム選定:電子請求書の発行・保存の両方に対応したシステムを選ぶ
③周知:電子化への切り替えを利用者・家族・取引先へ案内する
④並行運用:一部の請求先から電子化し、紙と併用しながら確認する
⑤対象拡大:問題がなければ、対象の請求先を施設全体で段階的に広げる
特に③の周知を省略すると、利用者や取引先が請求書の到着に気づかず、支払いの遅れにつながることがあります。切り替え時期を明確に伝えてから移行を始めてください。
要件を満たせない場合の猶予措置も確認しておく
国税庁は、要件どおりの保存が難しい相当の理由があると税務署長に認められ、かつ税務調査の際にデータのダウンロードの求めや印刷書面の提示に応じられる事業者について、保存要件の一部を緩和する猶予措置を示しています。移行がすぐには難しい事情がある介護施設は、この猶予措置の対象になるかどうかも含めて、顧問税理士などに確認してください。
契約書やケアプランの電子化は、また別の制度になる
電子帳簿保存法が対象とするのは、請求書や領収書など税務に関する書類です。契約書、重要事項説明書、ケアプランなど、介護保険法令が交付・保存を求める書類の電磁的記録については、根拠となる法令も条件も異なります。
対象書類の範囲や、利用者への同意の取り方など、介護保険関係書類の電磁的保存については、介護保険関係書類の電磁的保存とは?対象書類と満たすべき条件で詳しく紹介しています。
まとめ|小さく試し、現場に合う運用へ整える
介護施設の請求書電子化は、業務効率化だけでなく電子帳簿保存法への対応でもあります。真実性の確保と可視性の確保という2つの保存要件を踏まえたうえで、現状把握から対象拡大までを段階的に進めてください。
制度の変更点を確認しながら日々の請求業務にあたっている担当者の丁寧さが、正確な経理処理を支えています。
参考にした一次情報
国税庁 電子取引関係: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/01.htm
国税庁 電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)適用要件: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm