請求書を電子でやり取りすると、そのデータを保存する義務が生じます。根拠は電子帳簿保存法です。2024年1月1日以後の取引では、印刷した紙だけを残す方法は認められていません。一方、紙の請求書をスキャンして保存するかどうかは、事業所が選べます。請求書電子化は、義務の部分と任意の部分を分けて進めることになります。
介護事業所が扱う請求書は、大きく2種類あります。利用者やご家族にあてた利用料の請求書と、仕入先や委託先から受け取る請求書です。どちらを電子にするかで、確かめる決まりと手順が変わります。
この記事では、電子帳簿保存法の3つの区分と、電子取引データの保存要件を整理します。インボイス制度との関係、利用者への案内、請求書クラウドの確認点も扱います。最後に、移行の手順を示します(2026年10月時点)。
電子 請求書と 2つの 制度の 関係
電子請求書とは、紙ではなくデータで発行し、受け取る請求書のことです。PDFをメールに添付する形や、クラウドサービス上で共有する形があります。関係する制度は2つで、役割が違います。
電子帳簿保存法は、請求書などのデータをどう保存するかを定めた法律です。インボイス制度は消費税の制度で、適格請求書に何を記載するかを定めています。適格請求書の記載事項は、次の6つです。
- 発行する事業者の氏名または名称と、登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合は、その旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と、適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名または名称
電子請求書でも、記載事項は紙と同じです。適格請求書は、紙の交付に代えてデータで提供することもできます。ただし、すべての請求書を適格請求書にする必要はありません。介護事業所での扱いは、後の節で説明します。
(参考:国税庁 タックスアンサー No.6625、国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問1・問31)
電子 帳簿 保存法の 3つの 区分と 請求書の 扱い
電子帳簿保存法の制度は、3つに区分されています。国税庁は、2つを「希望者のみ」、1つを「対応が必要」と説明しています。請求書に当てはめると、次のとおりです。
区分 | 請求書での場面 | 義務か任意か | 主な要件 |
|---|---|---|---|
電子帳簿等保存 | 会計ソフトなどで自ら作成した帳簿や、請求書の控えを、データのまま保存する | 任意(希望する事業者のみ) | システムの概要書等の備付け、ディスプレイ等の備付け、税務職員によるダウンロードの求めに応じること |
スキャナ保存 | 紙で受け取った請求書や、紙で渡した請求書の写しを、スキャナで読み取って保存する | 任意(希望する事業者のみ) | 入力期間の制限、200dpi以上での読み取り、カラー画像、タイムスタンプの付与(入力期間内の入力を確認できる場合は代えられる)、訂正・削除の履歴の確保、検索機能の確保など |
電子取引データの保存 | メールやクラウドサービスで受け取った請求書と、電子で送った請求書のデータを保存する | 義務(所得税・法人税の保存義務者) | 改ざん防止の措置、ディスプレイ等の備付け、日付・金額・取引先での検索 |
紙で受け取り、紙で保存している請求書は、そのままで構いません。対応が必要なのは、電子でやり取りした請求書です。データを印刷して紙で保存する方法は、2021年度の税制改正で廃止されました。2023年12月31日までは、紙での保存を認める経過的な措置がありました。2024年1月1日以後の取引は、データのまま保存します。
スキャナ保存を選ぶと、読み取った後の紙を廃棄できます。廃棄の前に、画像と紙の内容が同じであることを確かめます。入力には期限があります。最長でも、受領から2か月とおおむね7営業日以内です。期限を過ぎた書類は、紙も保存しなければなりません。
紙で渡した請求書の控えは、紙ではなくデータで保存できます。パソコンで一貫して作成していることが条件です。印刷した後に手書きで内容を加えた請求書は、基本的に対象になりません。
(参考:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律、国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」)
電子 取引 データの 保存 要件と 緩和 措置
保存の義務があるのは、所得税と法人税の保存義務者です。根拠は電子帳簿保存法第7条です。受け取った請求書だけでなく、電子で送った請求書のデータも対象になります。保存の要件は、同法の施行規則第4条第1項などが定めています。大きくは、真実性の確保と可視性の確保に分かれます。
要件 | 内容 | 緩和される場合 |
|---|---|---|
真実性の確保(改ざん防止の措置) | 次のいずれか1つを行う。タイムスタンプが付されたデータを受け取る。受け取った後、速やかにタイムスタンプを付す。訂正・削除の履歴が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムで授受と保存を行う。訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用し、備え付ける | なし(猶予措置は本文を参照) |
可視性の確保(ディスプレイ等の備付け) | 保存する場所にディスプレイやプリンタ等を備え付け、画面と書面に速やかに出力できるようにする | なし(猶予措置は本文を参照) |
可視性の確保(検索機能) | 取引年月日・取引金額・取引先で検索できる。加えて、日付または金額の範囲を指定した検索と、2つ以上の項目を組み合わせた検索ができる | 税務職員によるダウンロードの求めに応じられる場合は、範囲指定と組み合わせの検索が不要。この求めに応じられ、かつ、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者、または出力した書面を日付・取引先ごとに整理して提示できる事業者は、検索機能のすべてが不要 |
改ざん防止の措置には、専用のシステムを入れない方法もあります。訂正と削除の防止に関する事務処理規程を定め、そのとおりに運用する方法です。国税庁は、この規程のサンプルを公開しています。検索の要件も、ファイル名の付け方で満たせます。日付・取引先・金額を、決まった順でファイル名に入れる方法です。表計算ソフトで索引簿を作る方法も示されています。なお、自社で開発したシステムを使う場合は、システムの概要を記載した書類も備え付けます。
検索の要件が不要になるかは、基準期間の売上高で判定します。法人は前々事業年度、個人事業者は前々年の売上高です。この売上高には、消費税が非課税の売上げも含まれます。介護保険サービスの収入も含めて、5,000万円以下かを確かめます。
要件どおりに保存できない事業者には、猶予措置があります(施行規則第4条第3項)。条件は2つです。1つは、保存できなかった相当の理由を、所轄の税務署長が認めることです。もう1つは、税務調査の際の求めに応じられることです。求められるのは、データのダウンロードと、印刷した書面の提示です。相当の理由には、システムの整備が間に合わない場合や人手不足が含まれます。事前の申請は要りません。ただし、データそのものは保存しておく必要があります。印刷した紙だけを残す対応は、猶予措置でも認められません。
社会福祉法人などの公益法人等は、申告の状況で保存の範囲が変わります。青色申告法人であれば、収益事業を含むすべての事業の取引が対象です。それ以外の公益法人等は、収益事業に関する取引が対象になります。自法人がどちらに当たるかは、税理士か税務署に確認してください。
保存する期間は、各税法が定める期間です。法人は原則7年で、欠損金が生じた事業年度などは10年になります。
(参考:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」、国税庁「電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」、国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」)
取引先から 電子で 受け取った 請求書の 保存
仕入先や委託先からの請求書は、受け取り方によって保存するものが変わります。
メールにPDFの請求書が添付されていた場合は、添付ファイルを保存します。取引の内容がメールの本文に書かれている場合は、メールそのものが対象です。メールソフトの中で閲覧できるだけでは、十分とはいえないとされています。決めたフォルダに、決めたファイル名で保存し直します。
取引先がクラウドサービスに載せた請求書を見る形も、電子取引に当たります。訂正や削除の履歴が残るサービスの上で授受と保存を行えば、要件を満たすとされています。ダウンロードして自事業所で保存する場合は、表の措置のどれかが必要です。
請求書以外にも、対象になるデータがあります。ECサイトで買った物品の領収書や、Webでしか見られないカードの利用明細です。請求書だけを集めて、これらを漏らさないようにします。
同じ内容の請求書が、紙でも届く取引先もあります。紙を正本とすることを取り決めていれば、紙の保存だけで足ります。ただし、データにしか書かれていない取引の情報がある場合は、両方を保存します。
(参考:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」、国税庁「電子取引データ保存要件チェックシート」)
インボイス 制度と 介護 サービスの 消費税
介護保険サービスの利用料の多くは、消費税が非課税です。居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービス、居宅介護支援などが対象です。支給限度額を超えて提供したサービスも、非課税になります。保険給付の対象から除かれる、日常生活に要する費用も同じ扱いです。
一方、課税になる費用もあります。消費税法基本通達は、利用者の選定による次のような費用を、非課税から除いています。
- 訪問介護や訪問看護などの交通費
- 訪問入浴介護の特別な浴槽水等の提供
- 通所介護や短期入所などの送迎
- 短期入所や施設サービスの特別な居室の提供、特別な食事の提供
福祉用具の貸与と販売も、この非課税の対象ではありません。身体障害者用物品に当たる用具だけが、別の規定で非課税になります。自事業所の請求にどの費用が含まれるかを、費用の項目ごとに確かめてください。
利用者あての請求書から見ていきます。適格請求書を交付できるのは、税務署長の登録を受けた事業者です。登録を受けるかどうかは任意で、登録できるのは課税事業者に限られます。登録した事業者にも、いつも交付の義務があるわけではありません。義務が生じるのは、課税の取引で、課税事業者から求められたときです。非課税の利用料だけの請求書に、この義務はありません。相手が消費者である場合も同じです。
登録を検討する材料は、課税の売上げの相手に課税事業者がいるかどうかです。たとえば、ほかの事業者から介護サービスの業務の一部を受託している場合です。この委託業務は、非課税にならないとされています。登録が要るかは事業所ごとに違うので、税理士か税務署に確認してください。
次に、取引先から受け取る請求書です。仕入税額控除を受けるには、帳簿と適格請求書などの保存が要件になります。自事業所の申告でこの保存が要るかは、税理士に確認します。電子で受け取った適格請求書は、消費税法の上では、印刷した書面の保存でも要件を満たします。しかし、所得税と法人税の保存義務者には、電子帳簿保存法の義務があります。データを消さずに保存する点は変わりません。
(参考:消費税法、消費税法基本通達 6-7-1〜6-7-4、国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問10・問23・問84・問85)
利用者あての 請求書を 電子で 渡すときの 承諾と 紙の 対応
利用料の請求方法は、契約書や重要事項説明書で取り決めているのが一般的です。電子に切り替えるときは、利用者やご家族の承諾を得てから始めます。
承諾の取り方は、運営基準の規定が参考になります。居宅サービスの運営基準は、書面で行う交付などを電磁的方法に代えることを認めています。条件は、相手方の承諾を得ることです。重要事項説明書については、手順が具体的に定められています。あらかじめ、使う方法の種類と内容を示し、文書か電磁的方法で承諾を得ます。承諾の後でも、電磁的方法では受けないという申出があれば、紙に戻します。
請求書でも、同じ手順で進めると行き違いを防ぎやすくなります。案内に書くことは、次の4点です。
- 渡す方法(メールへの添付、Webでの閲覧など)と、始める月
- 送り先(利用者本人か、ご家族か)と、そのメールアドレス
- 紙を希望する場合は、これまでどおり紙で渡すこと
- 承諾した後でも、申出があれば紙に戻せること
承諾は書面かメールで受け、利用者ごとに記録を残します。紙を希望する方には、紙での請求を続けます。全員を一度に切り替える必要はありません。
電子で渡した請求書は、事業所の側でもデータの保存が必要です。請求書のもとになるデータベースでの保存も、認められています。条件は、内容が変更されるおそれがないことです。税務調査では、渡したときの形での出力を求められることがあります。
なお、領収証は、介護保険法で交付が義務付けられた書類です。記載する内容にも決まりがあります。請求書と一緒に電子化する前に、「介護サービスの領収証の書き方」で確かめてください。領収証を電子で渡してよいかは、指定権者である都道府県や市町村に確認します。契約書やケアプラン、サービス提供の記録などの電磁的記録は、別の決まりによります。「介護保険関係書類の電磁的保存」で解説しています。
(参考:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」)
請求書 クラウドを 比べるときの 確認点
請求書クラウドは、請求書の作成・送付・保存をインターネット上で行うサービスです。機能が似て見えるので、介護事業所では次の点を先に確かめます。
確認点 | 確かめること | 関係する決まりや理由 |
|---|---|---|
改ざん防止の措置 | 訂正・削除の履歴が残るか、訂正・削除ができない仕組みか。発行した請求書と受け取った請求書の両方を保存できるか | 電子取引データの保存要件(真実性の確保) |
検索 | 取引年月日・取引金額・取引先で検索できるか。範囲の指定と、項目の組み合わせで検索できるか | 電子取引データの保存要件(可視性の確保) |
データの取り出しと保存期間 | 保存期間を通じて閲覧できるか。解約するときに、データをまとめて取り出せるか | 法人は原則7年の保存が必要なため |
課税と非課税の区分 | 費用の項目ごとに税区分を設定できるか。適格請求書の記載事項を出力できるか | 介護サービスの利用料には、非課税の費用と課税の費用があるため |
送付方法の切り替え | 請求先ごとに、電子と紙を選べるか。承諾の有無を記録できるか | 紙を希望する利用者が残るため |
複数の事業所での利用 | 事業所ごとに様式や振込先を分けられるか。拠点ごとに権限(閲覧のみ、発行可など)を設定できるか。本部で発行の状況を一覧できるか | 拠点が多い法人ほど、権限の管理と集計に手間がかかるため |
ほかのソフトとの連携 | 介護ソフトの請求データを取り込めるか。会計ソフトへデータを渡せるか | 金額の転記を減らすため |
料金の型 | 月額の固定か、発行通数に応じた従量か。郵送の代行は別料金か | 毎月の発行通数と、紙で残る通数で費用が変わるため |
上の3行は、電子帳簿保存法による保存に関わります。国税庁は、市販ソフトの認証の一覧を案内しています。日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証です。電子取引のソフトも対象になっています。認証の有無は、確かめる材料の1つになります。ただし、認証は機能についてのものです。保存の運用は、事業所が自ら整えます。
試用できる場合は、自事業所の実際の請求書で確かめます。課税と非課税の費用が並ぶ請求書と、紙で送る請求先を含めるのが要点です。入金の確認や督促まで含めた機能は、「請求管理システムとは」で解説しています。
(参考:国税庁「JIIMA認証情報リスト」)
請求書 電子化の 移行 手順
- 請求書を洗い出します。発行する分と受け取る分に分け、紙か電子かを一覧にします。よくある失敗は、ECサイトの領収書やカードの利用明細を数え漏らすことです。
- 電子で受け取っている分の保存方法を決めます。保存する場所、ファイル名の付け方、事務処理規程の3つです。印刷して紙だけを残し、データを消してしまうのがよくある失敗です。
- 税の扱いを税理士に確認します。保存義務の範囲、検索要件の判定、インボイスの登録の要否です。介護報酬は非課税だからと、売上高の判定から外してしまう誤りに注意します。
- 発行の方法とサービスを選びます。前の節の表で、候補を比べます。発行の機能だけを見て、受け取った請求書の保存を確かめないのがよくある失敗です。
- 利用者やご家族、取引先に案内し、承諾を得ます。方法と始める月を示し、承諾を記録します。一斉に切り替えて、紙を希望する方の確認を省くのがよくある失敗です。
- 一部の請求先から始め、しばらく紙と並行して確かめます。届いているかと、支払の遅れがないかを見ます。送っただけで確かめず、未収に気づくのが遅れることがあります。
- 対象を広げ、保存の運用を定期的に点検します。検索できるかと、規程どおりに保存しているかを見ます。保存の場所を担当者しか知らない状態が、よくある失敗です。
スキャナ保存は、この手順が落ち着いてから検討すれば足ります。義務ではなく、入力の期限などの要件があるためです。
まとめ
請求書電子化で先に対応するのは、電子でやり取りした請求書をデータのまま保存することです。まず、自事業所の請求書を、発行と受領、紙と電子に分けて一覧にしてください。次に、電子で受け取っている分の保存場所とファイル名の付け方を決めます。利用者あての請求書は、承諾を得た方から切り替え、紙を希望する方には紙を続けます。保存義務の範囲とインボイスの登録の要否は、税理士か税務署に確認してください。
参考
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成十年法律第二十五号)
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(平成十年大蔵省令第四十三号)
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」
- 国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月)
- 国税庁「電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」(令和6年11月)
- 国税庁「電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月)
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」(令和8年7月。電子取引関係、スキャナ保存関係、電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係)
- 国税庁「JIIMA認証情報リスト」
- 消費税法(昭和六十三年法律第百八号)
- 国税庁 消費税法基本通達 第6章第7節「社会福祉事業等関係」
- 国税庁 タックスアンサー No.6625「適格請求書等の記載事項」
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A目次一覧」
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)

