介護分野の採用が難しい背景には、求人の数に比べて求職者が少ないことがあります。厚生労働省の統計では、介護サービスの職業の有効求人倍率が全職種を大きく上回っています。求人票の写真や文言を変えるだけでは、応募は増えにくい状況です。限られた求職者の中で、どう選ばれるかを考える必要があります。
この記事では、有効求人倍率の推移と、職種による違いを確かめます。そのうえで、募集条件の見直し、採用ルートの組み合わせ、定着に関わる情報の発信を扱います。採用活動の基本的な進め方も、5つのステップで整理します(2026年10月時点)。
介護の 有効 求人 倍率と 全職種との 差
厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」は、介護・福祉分野の有効求人倍率の推移を示しています。もとの統計は、厚生労働省の職業安定業務統計です。介護サービスの職業と全職種の値を抜き出すと、次のとおりです。
年 | 介護サービスの職業の有効求人倍率 | 全職種の有効求人倍率 |
|---|---|---|
2013年 | 1.83倍 | 0.93倍 |
2016年 | 3.05倍 | 1.36倍 |
2019年 | 4.31倍 | 1.60倍 |
2021年 | 3.60倍 | 1.13倍 |
介護サービスの職業とは、介護サービス員やホームヘルパーなどを指します。2013年から2021年のどの年も、全職種の倍率を上回っています。この期間で最も高かったのは、2019年の4.31倍です。2021年の3.60倍は、全職種の1.13倍の約3.2倍にあたります。求人を出しても応募が集まりにくい背景には、この差があります。個々の事業所の工夫だけでは、解消しにくい状況です。
介護職員の必要数も、増える見込みです。厚生労働省は2024年7月に、都道府県が推計した必要数を公表しました。第9期介護保険事業計画のサービス見込み量などに基づく推計です。2026年度に約240万人、2040年度に約272万人が必要とされています。2022年度の約215万人と比べると、それぞれ約25万人、約57万人の増加です。
(参考:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」第2-(1)-5図、厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)
夜勤や 訪問のある 職種での 採用の 難しさ
採用の難しさは、職種によって違います。厚生労働省の資料では、訪問介護の職種の有効求人倍率が、施設の介護職員を上回っています。2022年度は、訪問介護職が15.53倍、施設介護員が3.79倍でした。ただし資料は、求職者数の集計に留意が必要と注記しています。
夜勤やオンコールの有無も、求職者が応募を決めるときの条件になります。同じ募集文をすべての職種に使い回すと、職種ごとの働き方が伝わりにくくなります。そこで、働き方がわかる情報を、職種ごとに分けて用意します。勤務時間、夜勤の回数、訪問件数、休暇の取りやすさなどです。応募者が、自分に合うかどうかを判断しやすくなります。
(参考:第220回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1「訪問介護」)
募集 条件の 見直しで 確かめる 4つの 視点
求人票を見直すときは、次の4つの視点で確かめます。
- 給与水準:処遇改善加算による賃上げ分が、求人票の金額に反映されているか。
- 勤務形態:夜勤の回数、訪問件数、シフトの融通など、具体的な働き方を書けているか。
- 応募のしやすさ:応募の連絡手段がわかりやすく、面接までの日数が短いか。
- 未経験者への支援:資格取得支援やOJTの体制を明記しているか。
4つのうち、給与水準と勤務形態から確かめます。賃金と労働時間は、募集のときに明示が求められる労働条件だからです。まず、自事業所の求人票がこの2点を具体的に書けているかを見ます。次に、応募のしやすさと、資格取得支援の情報を補います。
職業安定法は、募集にあたって労働条件を明示するよう定めています。業務の内容、賃金、労働時間などです。募集の情報を、正確で最新の内容に保つことも定めています。処遇改善加算の区分や配分を変えたときは、求人票の金額も直します。加算の区分は「介護職員等処遇改善加算の区分と要件」で解説しています。
(参考:職業安定法第5条の3第1項、第5条の4第2項)
複数の 採用 ルートの 組み合わせ
採用ルートには、それぞれ向いている場面があります。
- 求人サイト・ハローワーク:幅広い層に求人を見てもらいたい場合に向く。
- 人材紹介:経験者や有資格者を絞って探したい場合に向く。
- 職員紹介(リファラル):職場の実態を知る職員から、知人を紹介してもらう。
- 実習・就職説明会:資格を取得できる学校との接点を作り、早い段階から関係を築く。
1つの媒体に絞らず、職種の難易度と採用の急ぎ具合に応じて、ルートを使い分けます。有効求人倍率が高い訪問介護の職種は、求人サイトだけに頼らない進め方が向いています。人材紹介や職員紹介も、並行して動かします。ルートごとの料金の型と費用対効果の見方は「介護求人の出し方」で解説しています。
定着に 関わる 情報の 発信
求職者にとっては、入職後に働き続けられるかも判断の材料です。夜勤の体制、休暇の取りやすさ、研修制度などが、定着に関わる情報にあたります。こうした情報を、採用活動の段階から発信します。職場見学の場でも、同じ内容を説明できるようにしておきます。応募前の不安を減らすことにつながります。採用後の早期退職については「採用した職員が早期退職するときに考えたいこと」で扱っています。
介護 採用の 基本的な 進め方と 5つの ステップ
採用活動は、求人を出して終わりではありません。募集条件の整理から振り返りまでを、一連の流れとして進めます。介護採用の基本的な進め方は、次の5つのステップです。
- 募集条件を整理します。職種ごとに、給与、勤務形態、必要な資格を決めます。前回の求人票をそのまま使い、給与や手当が古いままになるのがよくある失敗です。
- 採用ルートを選びます。求人サイト、人材紹介、職員紹介などを、職種に合わせて選びます。すべての職種を、同じルートだけで募集しないようにします。
- 応募に対応します。応募から面接までの連絡日数の目標を決めます。担当者が不在の日に連絡が止まり、返事が遅れるのがよくある失敗です。
- 面接をして、内定を出します。職場の実態をそのまま伝え、入職後のギャップを減らします。募集のときと違う条件で採用するなら、契約の前に変更点を明示します。夜勤の回数などをあいまいにしたまま、内定を出さないようにします。
- 結果を振り返ります。応募数、面接数、採用数を記録し、次回の募集条件とルートを見直します。採用が決まった時点で終わりにして、記録を残さないのがよくある失敗です。
手順5は、採用が決まると後回しになりがちです。結果を記録しておくと、次回の募集で条件とルートを選ぶ根拠になります。
管理者が1人で採用を担っている事業所では、通常の業務との両立が負担になります。面接をほかの職員と分担する方法があります。振り返りを月1回にまとめる方法もあります。応募者の情報の管理に使う仕組みは「採用管理システム(ATS)とは」で解説しています。
(参考:職業安定法第5条の3第3項)
1つの 職種・ 1つの 媒体から 始める 効果の 確認
すべての職種と媒体を、一度に見直す必要はありません。次の4つを、1つの職種・1つの媒体から始めます。
- 直近の募集について、応募数・面接設定数・採用数を職種別に振り返る。
- 求人票の給与・勤務条件を、現在の処遇改善加算の配分と照らし合わせる。
- 1つの媒体・1つの職種で募集文を見直し、応募数の変化を確かめる。
- 休暇・研修・夜勤体制など定着に関わる情報を追加し、応募者の反応を見る。
まとめ
介護の採用が難しい背景には、有効求人倍率が全職種を大きく上回る状況があります。まず、直近の募集の応募数・面接設定数・採用数を、職種別に書き出してください。次に、1つの職種の求人票で、給与水準と勤務形態の書き方を見直します。採用ルートの組み合わせと、定着に関わる情報の発信は、結果を見ながら広げます。採用と定着が進めば、利用者へのサービスを途切れさせずに続けやすくなります。

