介護施設のインカムは、職員間の連絡を速くするための機器です。記録や請求のように業務そのものを減らす道具ではないため、導入の目的は「どの連絡に時間がかかっているか」で決まります。

連絡が速くなると、職員は利用者のそばを離れずに応援を呼べるようになり、ナースコールが鳴ったときに対応できる職員を探して館内を歩き回る場面も減らせます。この記事では、インカムで解決できる課題、導入前に確かめる現場の条件、一部フロアでの試用の進め方、インカムが要件に入る加算を扱います。

インカムが短くするのは職員間の連絡の時間

インカムは、マイクの付いたイヤホンで、離れた場所にいる職員と声でやり取りする機器です。厚生労働省の生産性向上推進体制加算の通知でも、「インカム(マイクロホンが取り付けられたイヤホンをいう。)等」を職員間の連絡調整を速めるICT機器として挙げています。専用の無線機を使う方式と、スマートフォンのアプリを使う方式があり、その違いは「介護施設のスマホインカム|専用機との違いと費用・通話範囲・操作性の比べ方」で解説しています。

同じ通知は、機器を選ぶ前に事業所の現状を把握し、業務上の課題を洗い出すよう求めています。インカムの検討も、何を誰に早く伝えたいのかを整理するところから始めると、必要な機能が見えてきます。

(参考:厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」令和6年3月15日老高発0315第4号)

インカムで解決できる3つの課題

連絡の場面

インカムがない場合

インカムを使う場合

応援要請

利用者から離れて人を探す

その場から近くの職員を呼ぶ

居場所の確認

詰所や内線のある場所に戻る

声をかけて返事で確かめる

情報共有

一人ずつ声をかけて伝える

グループの職員に一度に伝える

転倒や体調の急変があったとき、インカムがあれば、対応している職員は利用者のそばにいたまま応援を呼べます。利用者の状態の変化も、対応中の職員全員に同時に伝えられます。

自施設でどの場面に時間がかかっているかは、応援を呼んでから人が来るまでの様子や、職員を探して歩いた場面を振り返ると分かりやすいでしょう。この振り返りは、あとで試用の効果を比べるときの基準にもなります。

導入前に確かめる現場の条件

確認する項目

見るところ

選び方への影響

建物

広さと階数・電波が届きにくい場所

通信方式と中継の要否

話す相手

全員で聞くか個別に呼ぶか

グループ分けと呼び出し機能

利用者の前での会話

居室や食堂で話す場面

イヤホンの形と話し方のルール

ほかのシステム

ナースコール・見守りとの連携

連携に対応した製品か

費用

端末の購入か月額の利用料か

台数と契約の形

建物・話す相手・利用者の前での会話の3つは、実際に現場を歩いて確かめる項目です。とくに電波は、図面だけでは分からない場所があるため、試用で確かめるのが確実です。利用者の前での会話は、利用者の名前や状態が周りに聞こえることへの配慮が要るため、機器を選ぶ前に話し方のルールも考えておきます。

ナースコールや見守りシステムと連携させるかどうかは、製品の選び方を大きく左右します。連携の考え方は「介護インカムとナースコール・見守りシステムの連携|選ぶときの確認項目と問い合わせ前の準備」、専用機の仕様の見方は「介護施設向け業務用インカムの選び方|4つの仕様の確認点とデモ機の試し方」、アプリの費用の違いは「無料インカムアプリと有料アプリの違い|業務で使う前の確認項目と切り替えの進め方」で解説しています。

費用については、都道府県の介護テクノロジー導入支援事業で補助を受けられる場合があります。厚生労働省の2025年度の事業概要では、ICTの補助対象にインカムが挙がっています。ただし、実施の有無や要件、申請の時期は都道府県ごとに異なるため、都道府県の案内で確認してください。制度の全体像は「介護テクノロジー導入で活用できる支援制度をやさしく解説」で解説しています。

(参考:厚生労働省「介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分))」)

一部フロアでの試用の進め方

全職員分を一度に導入すると、現場に合わなかったときの影響が大きくなります。まず1フロアや数名分で試し、聞き取りやすさや電波の届き方を確かめてから対象を広げると、機種や方式の選び直しがしやすくなります。

  1. 試用する範囲と期間を決める。日勤だけで試すと、職員が少ない夜勤帯での使い勝手が分からないままになります。
  2. 導入前の連絡の様子を記録する。応援を呼んでから人が来るまでの様子や、職員を探して歩いた場面を残しておかないと、試用のあとに比べるものがありません。
  3. 話し方のルールを決める。呼びかけの順番や、利用者の名前をどう伝えるかを決めずに始めると、全員に全部が聞こえて必要な連絡が埋もれます。
  4. 試用後に職員から聞き取る。電波の届かない場所、聞き取りにくさ、長時間つけたときの負担は、管理者だけでは分かりません。夜勤の職員からも聞き取ります。
  5. 対象を広げるか、機種や方式を見直すかを決める。

インカムが要件に入る加算

生産性向上推進体制加算では、インカム等の職員間の連絡を速めるICT機器が、対象の介護機器の一つです。加算(Ⅰ)では、見守り機器・インカム等・介護記録ソフトウェア等の3種類をすべて使う必要があり、加算(Ⅱ)ではこのうち1種類以上を使います。どちらの区分でも、インカム等を使う場合は、同じ時間帯に勤務する全ての介護職員が使うことが要件です。なお、この通知のインカム等には、ビジネス用のチャットツールも含まれます。要件の詳細は「生産性向上推進体制加算の要件」で解説しています。

特養などの夜勤職員配置加算にも、必要な夜勤職員の上乗せを小さくできる区分があり、その要件には、見守り機器を入所者の数以上設置することと、夜勤を行う全ての介護職員または看護職員が情報通信機器を使うことが含まれます。詳しくは「夜勤職員配置加算」で解説しています。

いずれかの加算の算定を考えているなら、試用の段階から「対象の時間帯の職員全員が使う」ことを前提に、台数と運用を決めておきます。算定できるかどうかは、指定権者(都道府県や市町村)に確認してください。

(参考:厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」令和6年3月15日老高発0315第4号、厚生労働省「厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準」平成12年厚生省告示第29号)

製品名特徴料金
Buddycom
公式サイト ↗
スマートフォンをインカムのように使い、音声・映像・位置情報を共有できる。月額Talk Liteプラン:年契約で1ユーザー月額600円、月契約で月額1,000円(税抜)。上位プランあり(30日間無料トライアルあり)
アルインコ インカム/アプリ無線
公式サイト ↗
施設内の職員同士がリアルタイムに通話し、連絡や応援要請を素早く共有できる。買い切り特定小電力トランシーバーなどの機器はオープン価格(販売店で購入)。構成により個別見積

まとめ

インカムは職員間の連絡を速くするための機器で、導入の目的は、応援要請・居場所の確認・情報共有のうち、自施設でどの連絡に時間がかかっているかで決まります。

出発点は、いまの連絡の様子を振り返り、記録しておくことです。この記録が、機器の選び方の基準にも、試用の効果を比べる材料にもなります。

次に、建物の電波、話す相手、利用者の前での会話、ほかのシステムとの連携を確かめ、1フロアでの試用から始めてください。加算の算定を考えている場合は、職員全員が使う前提で台数を決めます。

参考