採用管理システム(ATS)は、応募者の情報と選考の進み具合を1か所で管理する仕組みです。ATSは、Applicant Tracking System の略です。応募を増やす道具ではなく、応募のあとの対応の抜けや連絡の遅れを減らす道具です。

応募が少ない事業所では、表計算や求人サイトの管理画面で足りることがあります。導入するかどうかは、採用のどの工程で手間や遅れが出ているかで決まります。

この記事では、ATSでできることと費用の型、工程ごとに変わることを扱います。導入前の整理、ATS以外の採用ツール、応募者情報の扱いも整理します。内容は2026年10月時点のものです。

採用管理システム(ATS)でできることと費用の型

ATSの機能は、大きく5つに分けられます。

機能

できること

介護施設で使う場面

応募者情報の一元管理

複数の経路からの応募を、1つの一覧にまとめる

求人サイト、ハローワーク、職員の紹介など、応募の経路が複数あるとき

選考の進み具合の管理

応募者ごとに、選考の段階と担当者を記録する

複数の人や複数の事業所が選考に関わるとき

連絡と日程の調整

応募者への連絡、面接の候補日の提示、やり取りの履歴の保存

担当者が現場の業務と兼務で、電話に出にくいとき

求人媒体との連携

求人を複数の求人媒体に出す。求人媒体からの応募を取り込む

介護職員、看護職員など複数の職種を同時に募集するとき

集計

職種別・経路別に、応募数、面接数、採用数を数える

どの求人媒体を続けるかを決めるとき

求人媒体は、求人サイトなど求人を出す先のことです。機能の範囲と、連携できる求人媒体は、製品によって違います。今使っている求人媒体が連携の対象かを、最初に確かめてください。

料金の決まり方にも、いくつかの型があります。

費用の型

料金の決まり方

見積もりで確かめること

月額固定

機能の範囲などで分かれたプランごとに、月額が決まる

利用する職員や事業所の数で、金額が変わるか

応募者数に応じた従量・段階制

登録する応募者の数に応じて、月額が変わる

応募が多い月の金額と、上限を超えたときの扱い

求人数に応じた段階制

公開する求人の数に応じて、月額が変わる

職種や事業所ごとに求人を分けたときの数

初期費用・追加機能の料金

導入時の設定や追加の機能に、別の料金がかかる

使いたい機能が基本の料金に含まれるか

無料プラン・無料の試用

機能や件数、期間を限って無料で使える

無料の範囲と、有料に切り替わる条件

複数の型を組み合わせた製品もあります。金額は製品と契約の条件で変わるため、この記事では示しません。見積もりでは、応募者数と求人数を伝えて、年間の総額を出してもらいます。契約期間と、解約するときのデータの扱いも確かめます。

応募から入職までの工程で変わることと変わらないこと

「採用管理」という言葉は、システムを指すことがあります。応募から入職までの流れの管理そのものを指すこともあります。ATSは、この流れの管理を支える道具です。ATSを使った採用(ATS採用)で変わるのは、応募が来たあとの工程です。

工程

ATSで変わること

変わらないこと

応募受付

複数の経路からの応募が1つの一覧に入り、担当者に通知が届く

応募の数。求人の内容と出す先は事業所が決める

連絡

定型文での返信、やり取りの履歴の共有、未対応の応募の表示

最初の連絡までの日数の目標と、担当者が不在のときの代わり

面接

候補日の提示と確定、面接の担当者への共有、評価の記録

質問の内容と評価の基準。職場を伝える見学や説明

内定

合否の連絡の記録、内定者の一覧

採否の判断。労働条件の明示は使用者の義務のまま

入職手続き

提出書類の案内と提出状況の管理(対応する製品の場合)

雇用契約の締結、社会保険などの手続き、受け入れと研修

表の右の列は、ATSを入れても事業所が決めることです。ここが決まっていないと、担当者ごとに対応が分かれます。労働条件の明示は、労働基準法第15条第1項が使用者に義務づけています。

応募の数を増やしたい場合は、求人を出す先と内容の見直しが先です。求人を出す手段の比べ方は「介護求人を出す手段の使い分け」で扱っています。介護の採用が難しい背景は「介護業界の採用が難しい理由」で解説しています。

(参考:労働基準法)

導入前の採用課題の整理の手順

「採用管理システム比較」で検索すると、多くの製品と機能の一覧が見つかります。ただ、機能の一覧だけでは、自事業所に要る違いが分かりません。先に、次の手順で採用の課題を整理します。

  1. 応募から入職までの流れを書き出します。工程ごとに、誰が何をするかを書きます。担当者の頭の中にある手順を、書かないまま進めるのがよくある失敗です。
  2. 直近の応募を一覧にします。応募日、応募の経路、最初の連絡日、面接日、結果を1人1行で書きます。応募の経路を記録しておらず、振り返れないのがよくある失敗です。
  3. 手間や遅れが出ている工程に印を付けます。課題は、応募の取りまとめ、連絡と日程調整、振り返りの集計の3つに分けられます。3つとも課題にして、優先順位が付かなくなるのがよくある失敗です。最も困っている1つを選びます。
  4. 連絡の目標と担当を決めます。応募から最初の連絡までの日数と、面接日が決まるまでの日数です。担当者が休みの日の代わりを決めていないのが、よくある失敗です。
  5. 今の道具で足りるかを確かめます。表計算や求人サイトの管理画面で、手順3の課題が解決するかを見ます。先に製品の資料を集めて、機能の多さで選んでしまうのがよくある失敗です。
  6. 足りない場合は、手順3の課題に合う製品を候補にします。使っている求人媒体との連携と、料金が何に応じて変わるかを比べます。価格や知名度だけで選び、導入後に機能の不足に気づくのがよくある失敗です。

候補を絞ったら、選考に関わる職員の全員に試用してもらいます。全員が無理なく操作できるかを確かめるためです。手順1の流れは一覧にして、担当者の間で共有しておきます。

ATS以外の採用ツールとATSが要らない場合

採用ツールは、ATSだけではありません。採用の一部の作業だけを助ける道具もあります。

  • 表計算での管理:応募者の一覧、選考の段階、連絡日を記録できます。複数の人が同時に更新するようになると、転記が追いつかなくなります。
  • 求人サイトの管理画面:そのサイトからの応募の確認と連絡ができます。複数の求人媒体を併用すると、確認する画面が分かれます。
  • 採用サイト作成ツール:自事業所の採用ページと応募フォームを作れます。応募のあとの進み具合を管理できるかは、製品によって違います。
  • 日程調整ツール、チャットでの連絡ツール:面接日の調整や応募者とのやり取りを助けます。選考の段階や合否は、別の道具に記録します。

ほかに、適性検査やスカウトのツールもあります。困っている作業が1つなら、その作業だけを助ける道具から試す方法があります。

次の場合は、ATSは要りません。

  • 応募が少なく、担当者1人が全員の状況を把握できている場合です。
  • 使う求人媒体が1つで、その管理画面で連絡まで済んでいる場合です。
  • 課題が、応募が来ないことや、採用の費用が増えていることである場合です。

3つ目の課題は、ATSでは解決しません。求人の内容は「求人で人が決まらないときの確認点」で扱っています。費用は「採用コストの点検」で扱っています。

複数の職種、複数の求人媒体、複数の担当者が重なってきたら、ATSを検討する時期です。小さな道具を併用して、転記が増えてきたときも同じです。なお、どの方法でも、次の節の個人情報の決まりは当てはまります。

応募者の個人情報の扱い

職員を募集する事業所は、職業安定法第5条の5の対象です。同条は、求人者と労働者の募集を行う者を対象に含めています。第1項は、応募者の個人情報の収集・保管・使用の範囲を定めています。原則として、業務の目的の達成に必要な範囲内に限られます。収集のときは、その目的を明らかにします。第2項は、個人情報を適正に管理するための措置を求めています。具体的な内容は、厚生労働省の指針(平成11年労働省告示第141号)が定めています。要点は次の4つです。

  • 目的は、応募者が想定できる程度に具体的に示します。厚生労働省の要領は、「採用のために使用します。」だけでは足りないとしています。面接の日程の連絡に使うなど、用途が分かるように書きます。
  • 社会的差別の原因となるおそれのある事項は、原則として収集できません。人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地などです。思想及び信条と、労働組合への加入状況も同じです。
  • 収集は、適法かつ公正な手段で行います。本人から直接収集する方法や、本人の同意の下で本人以外から収集する方法があります。
  • 保管する必要がなくなった個人情報は、破棄または削除します。漏えいや、権限のない人のアクセスを防ぐ措置も講じます。応募者から求められたら、措置の内容を説明します。

個人情報保護法の決まりも重なります。応募フォームへの入力で個人情報を取得する場合は、あらかじめ利用目的を明示します。これは第21条第2項の決まりです。第23条は、漏えいなどを防ぐ安全管理措置を求めています。

クラウド型のATSでは、応募者のデータは事業所の外のサーバーに保存されます。これが個人データの取扱いの委託に当たるかには、判断の基準があります。提供事業者が個人データを取り扱うことになっているかどうかです。個人情報保護委員会のQ&Aが示しています。委託に当たる場合、事業所は第25条により委託先を監督します。当たらない場合も、事業所自身の安全管理措置は必要です。あわせて、厚生労働省の要領は、保管を第三者に依頼する場合はその旨を明示するとしています。クラウド型のATSがこれに当たるかは、都道府県労働局に確認します。契約書や利用規約で、提供事業者がデータをどう扱うかも確かめてください。

不採用になった人や辞退した人の応募書類にも、同じ決まりが及びます。厚生労働省の「採用選考自主点検資料」は、応募書類の取扱い方に触れています。返却や破棄などの取扱い方を、あらかじめ定めることが必要だとしています。定めた内容は応募者に周知し、確実に実行します。ATSでは、応募書類はデータとして残ります。いつ削除するかを、収集の目的に照らして事業所が決めておきます。要領は、本人から破棄や削除の要望があった場合も、措置の対象に含めています。

ATSを選ぶときは、次の4点を確かめます。

  • 応募フォームに、個人情報を使う目的を具体的に表示できるか。送信ボタンの前に置けるか。
  • 応募者の情報を見られる職員を、選考に関わる人に限れるか。
  • 不採用者と辞退者のデータを、決めた時期に削除できるか。
  • 提供事業者が応募者のデータを取り扱うか。契約書や利用規約にどう書かれているか。

(参考:職業安定法、平成11年労働省告示第141号、厚生労働省「募集・求人業務取扱要領」、個人情報の保護に関する法律、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」と同ガイドラインに関するQ&A、厚生労働省「採用選考自主点検資料」)

応募フォームの項目と公正な採用選考

応募フォームの項目を決めるときは、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」を確かめます。採用選考の基本は、応募者の基本的人権の尊重と、適性・能力に基づいた基準の2点です。適性・能力に関係のない事項は、把握しないようにすることが重要だとされています。応募用紙に書かせることも、面接で尋ねることも含まれます。インターネット上の応募入力画面の項目も、同じ留意の対象です。

厚生労働省は、就職差別につながるおそれがある事項を、3つに分けて挙げています。1つ目は、本人に責任のない事項です。本籍・出生地、家族、住宅状況、生活環境・家庭環境に関することが当たります。2つ目は、本来自由であるべき事項です。宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想に関することが当たります。労働組合や社会運動、購読新聞・雑誌・愛読書に関することも含まれます。3つ目は、採用選考の方法です。身元調査などの実施が当たります。合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断も含まれます。

介護の事業所の応募フォームでは、たとえば次の項目を見直します。夜勤に入れるかを知りたくて、家族構成を尋ねる項目は外します。勤務できる曜日や時間帯、夜勤の可否として直接尋ねます。

健康状態や既往歴の項目にも注意が要ります。厚生労働省は、既往歴の確認や健康状態の告知書の提出も、採用選考時の健康診断に含めています。適性と能力の判断に合理的かつ客観的に必要な場合を除き、実施しないよう求めています。必要な場合も、内容と必要性を応募者にあらかじめ十分に説明します。なお、病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報です。原則として、本人の同意なしに取得できません。

外国籍の応募者には、採用選考の段階で在留カードの提示を求めないようにします。在留資格は口頭や書面で確かめ、採用内定後に在留カードで確認します。内定後の提出書類も、同じ考え方で見直します。戸籍謄本などで本籍を把握することには、通常、合理的な必要性がないとされています。

製品を比べるときは、既定の応募フォームの項目を一覧で出してもらいます。上の事項に当たる項目を、事業所の側で外せるかを確かめるためです。AIで書類選考や面接の評価を助ける機能を使う場合も、基本的な考え方は変わりません。判断に迷う項目は、管轄のハローワークか都道府県労働局に確認します。

(参考:厚生労働省「公正な採用選考の基本」、公正採用選考特設サイト「よくある質問」、厚生労働省「採用選考自主点検資料」、個人情報の保護に関する法律)

まとめ

採用管理システム(ATS)は、応募のあとの対応の抜けと連絡の遅れを減らすための道具です。検討は、応募から入職までの流れを書き出し、直近の応募を一覧にするところから始めます。手間や遅れが出ている工程を1つ選び、今の道具で足りるかを確かめてください。足りなければ、課題に合う機能、求人媒体との連携、料金の決まり方で候補を比べます。あわせて、応募フォームの項目と、応募者のデータを削除する方法を確かめます。応募を増やすための求人の出し方は、この記事の範囲の外です。

参考